
疋田 翔(理学療法士)
理学療法士1年目に訪問リハビリを経験し、2年目以降は回復期病棟に勤務。その後、自身の祖父が脳梗塞で倒れた際の介護経験を機に、病院と在宅でのリハビリのギャップを痛感する。「より患者さまの生活に沿って、ご家族に寄り添った支援をしたい」という思いから、再び訪問看護でのリハビリ職へと転身。現在は九州エリアを中心に、生活期を支えるリハビリやフレイル予防・介護予防を見据えた活動に尽力している。
記事の見どころ
- 病院での経験と、身内の介護を機に見えた在宅医療のリアル
- 訪問現場で求められる「3つのマインドセット」とホスピタリティ
- フレイル予防・介護予防を見据えた、次なるキャリアの目標
目次
訪問リハビリという働き方を選んだ理由を教えてください。

数年前に祖父が脳梗塞で倒れたことが、大きな転機になりました。
私自身、入職して1年目の配置先が訪問リハビリで、2年目以降は回復期病棟で勤務をしていました。当時の上司から「生活期もみられるセラピストになって欲しい」といわれたのが背景にあります。
その後、病院から再び訪問領域、それも訪問看護ステーションでのリハビリという働き方を選んだのには、ある個人的な大きなきっかけがありました。数年前に私の祖父が脳梗塞になり、回復期リハビリテーション病院を経て、退院後に自宅へ戻ったんです。私自身、間接的に祖父のリハビリをサポートする中で、病院でできていたことが自宅では継続できないことや、自宅に帰ってからの悩み、家族の不安が想像以上に強いことを、当事者家族として痛感しました。
病院でしか得られない知識や、病院じゃないとできないことももちろん多くあります。しかし、この経験を通じて、より患者さまの生活に沿って、ご家族に寄り添った支援をしたいという思いが強くなり、訪問看護の中でのリハビリ職を選びました。
病院と訪問リハビリの決定的な違いは何だと感じますか?

専門知識の前に、最低限の社会人としてのマナーやホスピタリティが求められます。
1番違うのは、患者さま自身のモチベーションだと感じています。病院でのリハビリは、患者さま自身が「良くしたい」と率先して取り組まれることが多いです。一方、訪問リハビリでは「生活自体が成り立っていない」ケースや、リハビリの必要性をご本人様は感じていないが、ご家族からの依頼で入らせていただくケースも多いです。そのため、まずは必要性を感じていただく説明や関わり方が大切だと思っています。まずはリハビリをするための土台づくり、「ラポール(信頼関係)の形成」が非常に難しい部分であり、重要になります。
また、環境が全く異なることも大きな違いです。訪問はお客様のご自宅というフィールドにお邪魔します。そのため、理学療法士としての知識やスキルの前に、ご本人様・ご家族の生活習慣への配慮など、最低限の社会人としてのマナーやホスピタリティが求められます。「このスタッフなら任せられる」と思っていただけて初めて、専門職としての強みを発揮できるのだと感じています。
訪問で働く上で押さえておきたい「心構え」を教えてください。

コミュニケーション、リスク管理、そして「報・連・相」の徹底です。
私が訪問現場で働く上で、特に大事だと感じているのは次の3つです。
1つ目は、コミュニケーション・接遇です。先ほどのお話と重なりますが、お客様のご自宅にお伺いする上で、ご本人様・ご家族の生活習慣への配慮や接遇マナーが、関係性を築くための第一歩になります。
2つ目は、リスク管理です。訪問時は基本的に1人です。運動中止基準などのリハビリ評価はもちろんですが、食事や水分摂取、生活状況における小さな変化を敏感に感じとる力が求められます。病院以上に、すぐに対応を判断する基準を持っておく必要があります。
3つ目は、報告・連絡・相談です。訪問現場では1人で判断しなければいけない場面も多いですが、全てを1人で抱え込む必要はありません。悩んだら管理者に相談する、あるいはクリニックやケアマネジャーさんにしっかりと状況を共有する。こうした「当たり前のこと」をどれだけ着実に行えるかが、地域連携における信頼関係の構築に繋がると思います。
「新卒で訪問リハ」という選択肢について、どう思われますか?

教育体制が整っていて、明確な目標があるなら価値ある選択肢です。
新卒で訪問リハビリを選ぶこと自体は、決して悪い選択ではないと思っています。在宅だからこそ学べることや、お客様・ご家族と深く関われる経験は非常に多いからです。
ただ一方で、先ほど挙げたようなリスク管理や対応力は現場で強く求められます。そのため、教育体制や相談しやすい環境が整っているかどうかが非常に重要になってきます。「1年目から訪問を経験して、次にどういうステップに進みたいのか」という目標が明確なのであれば、自身の成長にとって価値ある選択肢になると思います。
今後のキャリアや目標について教えてください。

フレイル予防や介護予防にも携わり、在宅分野の魅力を伝えていきたいです。
訪問の現場を経験して、生活の場で関わることの大切さをより強く感じるようになりました。現在、訪問看護の中で重症度の高い方に関わる機会も多いのですが、今後は「もっと早い段階から関われていたら」という課題感から、フレイル予防や介護予防にも積極的に携わっていきたいと考えています。
理学療法士としての専門性を活かして地域との繋がりを密にし、九州エリアで質の高いケア体制を構築していくのが目標です。そして将来的には、在宅分野の魅力を伝えていける存在になれたらと思っています。
最後に、読者へメッセージをお願いします。

「おかげで最後まで一緒に過ごせた」と言っていただける、やりがいのある仕事です。
訪問リハビリは、難しい側面もありますが、その分「生活を支えている」という強い実感を持てる仕事です。関わった患者さまやご家族から「こういう風に過ごすことが最後にできた」「おかげで最後まで一緒に過ごすことができた」という言葉をいただけた時のやりがいは、何にも代えがたいものがあります。
不安を感じるのは自然なことですし、最初から1人で完璧にできる人はいません。周囲に相談しながら経験を積み、少しずつ自信に繋げていけば大丈夫です。在宅だからこそ学べることや気付けることは本当に多くあるので、少しでも興味がある方には、ぜひ挑戦してみて欲しいと思っています。
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