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病気になる前から医療と出会う社会へ。イベントとクリニックでつくる新しい文化【諏訪敬太郎/歯科医師】

歯科医師2026.9.7 公開
諏訪敬太郎
歯科医師。建築士を志すも、母の勧めと叔父の影響から歯科医師の道へ。2016年に日本大学歯学部を卒業し、一般歯科から小児・高齢者への訪問診療まで幅広く経験。分院長として約7年間、医院運営にも携わる。「病気になってから治す医療」への違和感から、医療職と一般の方が出会う場YOUR TIME.を東京・大阪・鹿児島で開催。2025年に株式会社Oral Villageを設立し、歯科を入口に多職種で健康を支える構想を進める。2026年10月、東京・茅場町に多職種連携型の歯科クリニックを開業予定。

記事の見どころ

  • 建築士志望から歯科医師へ進んだ理由
  • 延べ3,000人以上が集まるYOUR TIME.の中身
  • 茅場町に開業予定、Oral Village構想のこれから
目次
  1. 歯科医師を目指したきっかけは何ですか?
  2. 現場で感じた違和感を教えてください
  3. YOUR TIME.はどんな場所ですか?
  4. Oral Villageとはどんな構想ですか?
  5. これから目指す社会を教えてください
  6. 医療職の方へ伝えたいことはありますか?

歯科医師を目指したきっかけは何ですか?

諏訪敬太郎

元々の夢は、建築士でした。

私が歯科医師を目指した理由に、幼い頃からずっと歯科医師になりたかったというような強い原体験はありません。元々なりたかったのは、建築士でした。昔から、細かいものを見ることや、手を動かして何かをつくることが好きでした。博物館にある街の縮尺模型のようなものも、ずっと見ていられるタイプです。構造物や細かい作業が好きで、自然と建築の世界に興味を持ちました。

一方で母からは、「手に職をつけなさい」「何か国家資格を取りなさい」といわれ続けました。私の両親は離婚していて、私は母親側で育ちました。母は資格を持たない状態で改めて社会に出て働くことに苦労した経験があり、当時は今以上に男女の働き方の差も大きかったと思います。だから私と姉には、国家資格を取ることを強く勧めていました。姉は看護師になっています。

建築士の道は、母の知人に一級建築士の方がいて、「家族を養えるほどになるのは一握りだ」といわれ、かなり反対されました。そこで高校3年生の夏を過ぎた頃、改めて進路を考えました。

母方の叔父が歯科医師だったこと。国家資格であること。元々細かい作業が好きだったこと。「歯科医師って、意外と自分に合っているかもしれない」。最初は、それくらいの感覚でした。

静岡から大学進学を機に上京し、日本大学歯学部へ進みました。2016年に卒業し、歯科医師免許を取得。学生時代に「絶対に歯科医師としてこんなことをしたい」という強烈な使命感が生まれたわけではありません。自分が本当に医療を通してやりたいことが見えてきたのは、臨床に出てからでした。

現場で感じた違和感を教えてください

諏訪敬太郎

治療だけでは解決できないものがある、と感じるようになりました。

2017年から医療法人に勤務し、一般歯科、小児歯科、高齢者への訪問歯科診療など、幅広い世代の患者さまと関わりました。2018年には分院長に就任し、約20名規模の組織をマネジメントしながら、年間売り上げ約1.5億円規模の医院運営を経験しました。

結果的に約7年間、分院長として現場だけでなく組織や数字にも向き合うことになりました。歯科医師として治療技術を磨き、医院を経営し、組織を動かす。経験は非常に大きかった一方で、それだけでは解決できないものがあると感じるようにもなりました。

今の医療は多くの場合、誰かが病気になったり困ったりしてから接点が生まれます。虫歯になったから歯科医院に行く。病気になったから病院へ行く。もちろん治療は必要です。ただ、目の前の症状を治すだけでなく、なぜ病気になったのか、もっと前の段階で関われなかったのかと考えるようになりました。

諏訪敬太郎

忘れられない患者さまがいます。

特に記憶に残っているのが、訪問歯科診療で関わった高齢の患者さまです。入れ歯をつくり、「これで食べられるね」といっていただける状態になりました。でも、数週間後に亡くなられました。

自分としては、歯科医師の役割を果たせたかもしれない。でも、強く感じました。「もっと早く出会えていたら、この人の未来は変わっていたのではないか」

病気になった人に対して、多職種で一生懸命治療することは大切です。でも本当に人の健康を考えるのであれば、病気になった後だけではなく、前から人生に寄り添う必要があるのではないか

さらに、分院長として数字や成果を追い続けた経験から、もう1つ考えるようになったことがあります。人を幸せにするための医療なのに、働く医療職自身が疲弊していたら、本当に良い医療をつくれるのだろうか

患者さまだけではなく、医療職も、企業も、それぞれが自分の得意なことで誰かを支えられる。そんな仕組みをつくりたい。現在の活動につながる考えが、明確になっていきました。

YOUR TIME.はどんな場所ですか?

諏訪敬太郎

YOUR TIME.を一言でいうなら、高校の文化祭の医療従事者版です。

私がつくった活動の1つが、YOUR TIME.です。高校の文化祭では、あるクラスがフランクフルトをつくり、別のクラスがカフェを開く。それぞれが自分たちのできることを持ち寄って、1つの空間をつくります。YOUR TIME.も同じです。

管理栄養士が栄養について伝える。理学療法士が姿勢について伝える。看護師や歯科医師、助産師、保育士なども、それぞれの専門性や思いを持ち寄る。そこに一般のお母さんや子ども、おじいちゃん、おばあちゃん、企業や学生も集まります。

楽しんで帰る頃には、「健康について、知らなかったことを1つ知れた」「こんな専門職がいるんだ」と感じてもらえる。そんな場所です。

2024年からYOUR TIME.を開始し、東京・大阪・鹿児島でこれまで7回開催してきました。延べ3,273名の方に参加していただいています。また、2023年から続けている多職種向けオンライン勉強会にも、延べ4,703名が参加しました。

>> YOUR TIME.についてはこちら

諏訪敬太郎さんのYOUR TIME.
諏訪敬太郎

医療職自身が主人公になれる場所にもしたいと思っています。

ただ、YOUR TIME.には、一般の方に健康を伝えること以外にも大切な役割があります。医療職自身が主人公になることです。そのまま訳せば「あなたの時間」。医療職には、高い専門性や熱い思いをもっていても、社会に伝える場所をもっていない人がたくさんいます。

本当はこんなことをしたい、もっと病気になる前の人と関わりたい、こういうことを社会に伝えたい。話を聞けば、思いをもっている人は本当に多い。でも、実際に一歩踏み出す人はそれほど多くありません

だから、「いいから一緒にやろう」と声をかけます。これまで人前で自分の思いを話したことがなかった人が、YOUR TIME.でブースを出し、自分の専門性を一般の方に伝える。イベントが終わった後に、「医療従事者でよかったです」といってくれる方がいます。

やっていてよかったと思う瞬間です。病院やクリニックの中だけでは見えなかった、自分自身の可能性に気付く。YOUR TIME.は一般の方だけではなく、医療職にとっても新しい世界に出会う場所なのだと思っています。

Oral Villageとはどんな構想ですか?

諏訪敬太郎

Oral Villageは歯科医院の名前ではなく、1つの世界観です。

もう1つ進めているのが、Oral Villageという構想です。2025年には株式会社Oral Villageを設立しました。掲げているテーマは、未病に抗う世界を創ることです。

単なる歯科医院の名前ではなく、1つの世界観。歯科クリニックを「歯が悪くなったら治しに行く場所」だけで終わらせず、人と人がつながる健康の入口にしたいと思っています。

歯科医院には、ほかの医療機関とは少し違う特徴があります。子どもの頃から定期的に関わることができ、高齢になっても通う。病気になってからだけではなく、予防や定期検診という形で、健康な時から接点をもてる場所でもあります。

だったら、歯科を入口にして、もっと広く健康に関われるのではないか。歯科だけではなく、栄養、運動、子育て、美容、地域。歯科医師や歯科衛生士だけでなく、理学療法士や管理栄養士など、さまざまな専門職が1人の人生を一緒に支える。「現代版の村」をつくりたいと思っています。

昔の村では、子育ても暮らしの困りごとも、周囲の人たちが自然に支え合っていたはずです。現代は専門性が高まり、便利になった一方で、人と人との関係は分断されやすくなっています。だから、もう一度つながる場所をつくる。

最初はOral Townという名前も考えました。でも、少し格好をつけすぎている気がしました。もっと親しみがあって、少し突っ込みどころがあるくらいが良い。「だったら村だな」と思い、Oral Villageになりました。

2026年10月には、東京・茅場町で「歯科×未病×多職種連携」をテーマにした新しい形のクリニックを開業する予定です。YOUR TIMEで医療職と一般の方の接点をつくり、Oral Villageで日常の中に実装する。イベントとクリニックの両方を動かすことで、病気になる前から医療と関わるという考え方を一過性のものではなく、続く仕組みにしていきたいと思っています。

これから目指す社会を教えてください

諏訪敬太郎

変えたいのは、医療との出会い方そのものです。

私が最終的に変えたいのは、医療との出会い方です。今は、病気になったら医療職に会うのが一般的です。でも、そうではなくて、人生をより良くするために医療職とつながる。そんな文化をつくりたいと思っています。

土用の丑の日にはうなぎを食べる。バレンタインにはチョコレートを贈る。年越しにはそばを食べる。理由を詳しく知らなくても、社会に文化として根づけば、人は自然に行動します。医療も同じだと思っています。

予防が大切です、未病が大切ですと医療職がいい続けるだけではなく、「健康なうちから医療職と関わるのが普通だよね」という文化そのものをつくってしまえばいいYOUR TIMEは未来を1日だけ体験できる場所。Oral Villageは、日常の中に実装していく場所です。

諏訪敬太郎

経済なき文化は、いつか終わってしまいます。

もう1つ、今の自分が強く感じていることがあります。これまで私は「夢と夢」をつないできました。思いを持つ人同士が出会い、応援し合える場所をつくってきたのがYOUR TIMEです。でも、続けていく中で気付きました。思いだけでは、文化は続かない。経済なき文化は、いつか終わってしまう。

だから次は「夢と金」です。お金を目的にするのではありません。思いを続けるために、きちんと経済が回る仕組みをつくる。取り組みの1つが、これからつくるクリニックです。

夢だけでもなく、お金だけでもない。両方を動かしながら、「病気になる前から医療と出会う」という新しい文化を残していきたいと思っています。

医療職の方へ伝えたいことはありますか?

諏訪敬太郎

資格や専門性は、もっと社会の中で活かせます。

医療職自身にも伝えたいことがあります。医療職の可能性は、病院やクリニックの中だけでは終わりません。資格や専門性は、もっと社会の中で活かせます。イベントをつくってもいい。人と人をつないでもいい。企業と組んでもいい。新しいサービスをつくってもいい。医療そのものの仕組みや文化をつくってもいい。

私自身、かなり「まずやる」タイプです。PDCAでいうなら、PもCもAもほとんどなくて、D、D、D、D。動きながら考えます。怖くないわけではありません。イベントを開催するたびに、「本当に人が来るのか」と思います。でも、それでも動く。止まらずに動いている時が一番「生きている」という感覚があります。

ただし、何でもかんでも事業を大きくすればいいと思っているわけではありません。私はよく、「ビジネスで成功したいのか、人生で成功したいのか」と考えます。お金を稼ぐことと、人生が幸せであることは同じではありません。家族との時間を大切にすることが幸せな人もいれば、世界中を飛び回ることが幸せな人もいる。

まず、自分にとって何が幸せなのかを考える。そして、一歩動いてみる。

この記事を読んで、歯科医師・医療職としての可能性を広げたい、病院やクリニックの外でも専門性を活かしたい、自分の思いやアイデアを社会に届けてみたいと感じた方は、hospassのLINE公式に登録して、最新情報をキャッチしていきましょう

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本記事は一般的な情報提供を目的とし、診断・治療その他の医療行為に代わるものではありません。症状や治療については医師等にご相談ください。取材対象者の見解は取材時点のものであり、すべての方に当てはまるものではありません。

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