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医療職25年の経験を活かし、保健師・社労士として企業を支援【大友貴子/保健師】

保健師2026.9.21 公開
大友貴子
保健師。大学で看護師・保健師・助産師の3資格を取得。助産師として病院に勤務後、産科閉鎖を機に企業へ。企業・自治体向けに健康相談やメンタルヘルス相談などの相談窓口事業を行う会社、外資系製薬会社、健診会社での産業保健師を経て社会保険労務士試験に合格。現在は健康と労務の両面から企業や医療機関を支援している。

記事の見どころ

  • 助産師が病院の外へ活躍の場を広げた理由とは
  • 難関の社労士試験に合格し、健康と労務を支える道へ
  • 「健康」と「労務」の両方から、働く人と組織を支えていきたい
目次
  1. 医療職を目指したきっかけを教えてください
  2. 病院を離れたきっかけは何だったのでしょうか
  3. 次のキャリアに向けて、どんな準備をしましたか
  4. 保健指導の現場では、どんな気付きがありましたか
  5. 社労士になった経緯を教えてください
  6. 今はどのような支援をされているのでしょうか
  7. 最後に、読者の方へメッセージをお願いします

医療職を目指したきっかけを教えてください

医療職を目指したのは、高校時代の環境が大きかったと思います。

私が通っていたのは理系色の強い高校で、周囲には医学部を目指す同級生がたくさんいました。医師を親に持つ生徒も多く、医学部受験対策のための小論文の授業もありました。

安楽死について考えたり、医学部の試験会場へ向かう途中で倒れている人を見つけたらどうするかといったテーマについて考えたり。高校生活を送るうちに、自然と病院で働くイメージができていきましたし、私自身も医学部を受験しました。ただ、私立医学部へ進むには経済的な負担が大きく、国立医学部は学力的に届きませんでした。

そこで「だったら医学部の看護学科に進もう」と考えました。薬学部を勧められたこともありましたが、私は昔から人と関わることが好きでした。薬剤師は、当時の私には、患者さまと直接コミュニケーションを取るイメージがあまりなく、人と近い距離で関われる看護のほうが自分には合っていると感じました。

大友貴子

同じ学費なら、取れるものは取ったほうがいいと思っていました。

大学では、看護師だけでなく保健師、助産師の資格も取得しました。当時通っていた大学では、看護師と保健師に加えて、選抜された学生は助産師の国家試験受験資格も得られる制度がありました。

助産師課程を履修できるのは、100人中10人でした。選抜試験を経て、大学4年生の夏休みを利用して助産師課程を履修し、卒業時に看護師・保健師・助産師の3つの国家資格を同時に取得しました。

大学入学時から「絶対に3つの資格を取るんだ」と思っていたわけではありません。でも、振り返ると、大学時代に複数の資格を持ったことが、その後のキャリアを大きく広げてくれたと思います。

病院を離れたきっかけは何だったのでしょうか

大学卒業後は、大学病院を経て、東京都内の病院で助産師として働きました。ずっと産婦人科混合病棟で働いていましたが、勤務していた病院の産科が閉鎖されることになりました。

病院からは看護師として残る選択肢も提示されましたが、閉鎖をきっかけに「一度、ビジネスの世界で働いてみたい」と思いました。そこで病院勤務から新たな分野へと目を向け、企業・自治体向けに幅広い相談窓口を提供する電話相談サービス会社へ転職しました。

大友貴子

健康部門のスーパーバイザーとして入社し、約100人の看護師をマネジメントする立場で働きました。

ところが、電話相談サービスの会社の労働環境は、かなり厳しいものでした。スーパーバイザーといっても管理職ではなく、給与は一般社員と大きく変わりません。それでも会社から携帯電話を持たされ、休日や夜間にも「トラブルが起きました」と連絡が来ました。

当時は労働法の知識がなかったので、そういうものなのかなと思いながら働いていました。今振り返ると、労務管理の観点から疑問を感じる点が少なくありません。

次のキャリアに向けて、どんな準備をしましたか

大友貴子

昼休みは外に出て、公園で英語を勉強していました。

そんな厳しい環境でも約5年間働きました。その間、私はずっと転職の準備をしていました。特に力を入れたのが「英語」です。

昼休みも社内にいると、次々と相談やトラブル対応が入ってきてしまうので、公園などで昼食を食べながら英語を勉強していました。英語は小学生の頃から好きで、長く勉強を続けていたので、特に苦に感じることはありませんでした。

なぜそこまで英語を勉強したのかというと、看護師から企業へ転職する場合、夜勤がなくなることで年収が下がる求人が多かったからです。せっかく転職するのであれば、収入を下げたくない。だったら、外資系企業に挑戦できるくらい英語力を身につけよう。そう考えました。

結果として外資系製薬会社へ転職し、クリニカルエデュケーターという仕事に就きました。医師や看護師に対して、疾患の仕組みや治療薬について説明する役割です。私が担当したのは、非常に患者数の少ない希少疾患の領域でした。

医療現場で培った知識やコミュニケーション能力を、病院とはまったく違う形で活かす経験になりました。3回にわたる英語面接も乗り越え、ようやくたどり着いた職場でした。

外資系製薬会社で働いたのは約1年です。社内ではクリニカルエデュケーターとMRとの役割分担が次第に曖昧になり、さらに社長や所属部署の部長の交代に伴って、組織の方針も大きく変化しました。外資系企業ならではの変化の速さも経験する中で、キャリアをあらためて考えるようになり、再び転職活動を始めました。

保健指導の現場では、どんな気付きがありましたか

大友貴子

健康の支援だけでは、働く人を支えきれないと感じました。

外資系製薬会社を離れたあと、健診会社で産業保健師として特定保健指導に携わるようになりました。健康診断の結果から特定保健指導の対象となった方に対して、生活習慣病の予防を目的に、食事や運動など日々の生活習慣を一緒に振り返り、改善につなげていく仕事です。

面談の場では、「会社の労働環境が変わらない限り、病気は良くならない」「人間関係が変わらないと、体調も変わらない」という声を何度も聞きました。食事や運動への助言だけでは、長時間労働や人間関係など、職場環境や労務管理を背景とする問題は解決できません。

労務管理とは、労働時間や休日・休暇、休職・復職などのルールを整備し、法令や社内規程に基づいて運用することです。健康面から支援しても、働き方そのものが変わらなければ体調は戻らない。何度も同じ壁に突き当たりました。

大友貴子

一方で、経営者側の問題も見えてきました。

従業員が休職すると、復職の可能性があるため、すぐに代替人材を採用することは難しく、その間の業務を周囲が担わなければなりません。特に人手不足の中小企業では、1人が長期間働けなくなることが経営課題になり得ます。健康問題・労務管理・経営課題は、それぞれ独立したものではなく、深く関わり合っています。

社労士になった経緯を教えてください

健康経営を実践していくためには、従業員の健康だけでなく、労働時間や職場環境などの労務管理にも通じていることが必要だと感じるようになりました。そこで、健康と労務の両面から企業を支援できるようになりたいと考え、社会保険労務士を目指しました。

社会保険労務士は、労働・社会保険に関する法律の専門家です。従業員が安心して働ける環境を整えることはもちろん、労務トラブルの予防や人材定着、生産性の向上など、「人」に関する経営課題を支援する役割も担っています。

大友貴子

社労士試験は想像以上に大変でした。

合格率が6%前後という難関試験であることは承知していました。ただ、試験はマーク式で、労働基準法のテキストを読んでも比較的なじみのある内容だったため「きちんと勉強すれば合格できるのではないか」と、最初は少し甘く考えていました。医療現場で働きながら、文字通り死に物狂いで勉強しました。「もうこれ以上は勉強できない」と思うほどやり切り、長い時間をかけてようやく合格することができました。

資格取得後は実務指定講習を受講し、「ウェルネス社労士・産業保健事務所」として開業しました。看護師、保健師、助産師として培ってきた健康・医療分野の経験と知識、企業で働く中で経験した職場環境や組織の課題、そして社会保険労務士として身につけた労務の知識。これまで歩んできたキャリアの全てが今につながり、現在の仕事に活かされていると感じています。

今はどのような支援をされているのでしょうか

現在は、社会保険労務士・保健師として、企業や医療機関に対して労務管理と産業保健の両面から支援しています。就業規則の整備、休職・復職対応、メンタルヘルス対策、ストレスチェック、健康経営支援、管理職向け研修などが主な仕事です。

大友貴子

私が大切にしているのは、健康と労務を別々に扱わないことです。

例えば、メンタル不調で休職する社員が出たとします。会社側からすると、何度も休職されると困る、どう対応すればいいのか分からないという問題になります。一方、本人には本人の健康状態や職場で抱えている問題があります。

メンタル不調への対応は、就業規則を整備するだけでも、本人へのカウンセリングだけでも十分ではありません。本人の健康状態への支援と、休職・復職や労働時間、職場環境などの労務管理を一体的に捉えて対応していく必要があります。

今は特に人手不足の時代です。企業が少数精鋭で成長していくためには、一人ひとりが健康で、本来のパフォーマンスを発揮できる状態をつくることが重要だと思っています。

大友貴子

制度を導入する際は、利便性だけでなく、従業員の健康への影響まで考えることが大切です。

例えば在宅勤務です。柔軟に働けるという意味では大きなメリットがあります。ただ、現場で保健指導をしていると、在宅勤務によって外出や人と接する機会が減り、運動不足や体重増加だけでなく、メンタル面の不調につながっている方にも出会います。

予防できる病気はできるだけ未然に防ぐ。そのためには、従業員一人ひとりが自分の健康について正しい知識を持ち、日々の行動につなげられるような健康教育が欠かせません。

健康管理は福利厚生の1つではなく、企業経営を支える重要な取り組みだと考えています。

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もう1つ、私が取り組みたいのが、看護師の離職防止を目的とした病院の労働環境の改善です。医療現場では、看護師が看護師長などの管理者になっても、労働法や労務管理について体系的に学ぶ機会がほとんどないまま、部下の労働時間や休暇、休職・復職などに関わる立場になります。

だからこそ、看護管理者が労務管理の基本を身につけることが、看護師が安心して働き続けられる職場づくりや離職防止につながると考えています。

実際、今でも看護師の友人や元同僚から、労務に関する相談が届きます。退職は1年前に言わなければ認めないといわれた、有給休暇は許可制だといわれた、どれだけ残業しても申請できる残業時間は1ヶ月20時間までといわれた。労働関係法令に抵触するおそれのある運用が、医療現場では昔からの慣習として残っているケースがあります。

看護師の離職対策として、賃金制度を見直そうという動きがあります。もちろん処遇の改善は重要ですが、賃金だけで離職の問題が解決するとは考えていません。労働時間や休暇の取りやすさ、人間関係、職場の風土に加えて、安心して意見や相談ができる「心理的安全性」のある職場づくりも重要です。看護師が安心して働き続けられる環境を整えることが、離職防止や人材定着につながると考えています。

また、日総研出版『ナースマネジャー』では、「人材の採用・定着に不可欠! 法的根拠に基づく労務管理」をテーマに、全5回にわたる連載を執筆させていただきました。労働時間・休憩、年次有給休暇とシフト、ハラスメント、メンタル不調者の休職・復職など、看護現場で起こりやすい労務課題について、法的根拠と実務の両面から解説しました。

大友貴子

働く人を大切にすることが、企業や医療機関の持続的な成長につながる社会を実現したいです。

最後に、読者の方へメッセージをお願いします

私がこれまでのキャリアを通して伝えたいのは、医療職として培ってきた経験や資格は、病院の中だけで活かされるものではないということです。

私は助産師として病院で働いたあと、電話相談サービス、外資系製薬会社、健診会社と、さまざまな場所で働いてきました。そして現在は社労士・保健師として開業しています。

医療職として培ってきた経験を活かしながら、病院の外にも新たなキャリアの可能性を広げていくことができると思います。

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本記事は一般的な情報提供を目的とし、診断・治療その他の医療行為に代わるものではありません。症状や治療については医師等にご相談ください。取材対象者の見解は取材時点のものであり、すべての方に当てはまるものではありません。

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