世の中に産業保健師のニーズが高いことを伝えたい!【佐藤 真弥 / 保健師】

世の中に産業保健師のニーズが高いことを伝えたい!【佐藤 真弥 / 保健師】

取材日:2023/10/16

佐藤 真弥(保健師) 

看護師として病棟勤務を経験後、東日本大震災での被災経験から、産業保健師に転向。
働く方の健康管理をすることで、病院側の負担軽減を図るために活動中。

hospass運営局

こんにちは、hospass運営局です。“病院はパスする時代”を創造するべく、医療職限定でチームを組み活動を進めています。

保健師の資格を持ちつつ、現在はIT、保険、製造業での産業保健業務全般及び健康経営に関わるコンサルティング等、産業保健師として活動している佐藤さんを取材させて頂きました!

記事の見どころ
  • 産業保健師に転向したきっかけ
  • 現在の業務に詰まっている想い
  • 社会へ与えたい影響

医療職の道を目指したきっかけを教えてください。

佐藤 真弥

従軍看護師だった祖母がきっかけです。

幼い頃から従軍看護師だった祖母に話を聞いていたことをきっかけに、看護師を目指しました。一度看護師を目指してからは、他の道を考えたことはなかったです。ちょうど就職氷河期の世代でもあったので、「手に職を持つ」という点から、家族も私の考えを尊重してくれました。 

看護師を志して大学に進学するまでは順調でしたが、入学してから授業数があまりにも多いという現実を知り、辞めておけばよかったと思ったことがあります。総合大学だったので、他学部がキャンパスライフを楽しんでいるのを横目に、私はずっと勉強していました。医療従事者あるあるだと思いますが、空きコマでちょっと家に帰ったり、バイトしたりといった大学生らしい生活に憧れましたね。

資格取得後は実習先ではなく自宅から通いやすい病院に就職し、腎臓内科や透析の病棟に配属されました。

看護師から産業保健師に転向したきっかけを教えてください。

佐藤 真弥

病棟勤務で疲弊していたことに加え、東日本大震災で被災したことがきっかけです。

病棟勤務は重症患者さんが多く、とにかく忙しかったので疲弊していました。患者さまをケアしてもケアしても終わらない日々。憔悴して辞めていく看護師はとても多く、私自身も疲れ果てていました。どうしたら緊急入院を減らすことができるんだろうかと漠然と考えていました。

そんなときにターニングポイントになったのは、2011年の東日本大震災で被災したことです。病院の非番時に地域の避難所へ支援に行っていたのですが、そのときに内服薬や健康に関する相談に乗ることが多かったんです。病院では働き盛りの世代と関わる機会がなかったので分からなかったんですが、地域で生活している方々も健康で悩んでいることを知りました。

この2つの経験から、働く方々が自分で病状をコントロールできれば、「なんでこんな状態になるまで放っておいたんだろう」という状況は打破できるのではないか、病棟スタッフの負担が減るのではないかと自分のなかで道筋ができたんです。

ただ道筋はできたものの、具体策が見つけられずにずっと模索していました。そんなとき、地域包括支援センターでのアルバイトをきっかけに、地域で医療につながることができていない方や障害を持っている方など、助けを求めている方がたくさんいると知りました。保健師としてできることがあると考えたんです。自分自身が仕事と家庭を両立できる働き方を考えたときに、企業での働き方のほうが合うと感じました。

インターネットで調べるうちに、産業保健師という職業があると知り、産業保健師を志しました。産業保健師は未経験からなることがすごく難しく、ロールモデルも周りにいなかったんです。

ですが私は諦めずに、転職エージェントに登録しながら求人が出るのを待って、2016年に産業保健師になりました。

産業保健師になってみていかがですか?

佐藤 真弥

ビジネスメールや接遇に苦労しましたが、看護師とは違うやりがいを感じました。

産業保健師のキャリアは、中規模病院の健康管理室でスタートしました。大変だったのは、ビジネスメールやWord、Excel、PowerPointなどの文書、接遇の経験もなかった点です。

しかし今までいち従業員だったところから、会社全体を俯瞰してみることができるようになったことで、従業員が法律の枠組みで守られていることを知りました。自分の職場を休職者数や労働時間などの数値のデータから分析し、全国平均と比較することで気づくことが大きかったですね。そこから課題を抽出して結果につながるので、看護師とは違うやりがいを感じています。

また産業保健師は、会社内に多くの人数が所属しているわけではないので、なかなか相談し合える方がいない点も苦労しました。研修会に参加して学ぶことはできますが、他社事例ではみえづらく、実践的な内容が分かりにくいんです。

最初の勤務先は2人体制だったので、「正しいことをしているはずなのに正しいのか分からない」というもどかしさを感じていました。今の会社は保健師が多いので、互いに事例検討ができるようになったのは大きいです。

同じように困っている保健師さんは多いはずです。X(旧Twitter)や学会などでつながることはできるので、もし悩んでいる産業保健師がいれば、解決することを諦めないでほしいです。

現在のお仕事に詰まっている想いを教えてください。

佐藤 真弥

医療従事者と地域に住む方々(患者予備軍)の仲介者の役割になりたいです。

今の会社では、IT、保険、製造業での産業保健業務全般および健康経営に関わるコンサルティングをしています。リーダー保健師という立場になり、保健師の相談に乗ることも増えました。自分が産業保健師として働くことで、過去の自分と同じように病棟で疲弊していた看護職が働きやすいようにしたいという想いがあります。

産業保健師が、企業の中で従業員のヘルスリテラシーを上げることで、受診すべきタイミングや救急車を呼ばなければいけない状態が分かるようになると思います。定期的に病院を受診することで、入院を必要とする方や救急車を呼ぶ方も減らすことにつながるでしょう。病院に来る方のヘルスリテラシーが少しでも上がっていれば、受け入れる病院側の繁忙度を下げ、医療従事者の負担軽減につなげることができると考えています。

これは地域に住む方々(患者予備軍)や、受け入れる医療従事者側双方にとってプラスになると思いますし、限りある医療資源の有効活用にもつなげることができます。だからこそ私は、医療従事者と地域に住む方々(患者予備軍)の仲介者になりたいんです。

また、外国人はエステに行く感覚でカウンセリングを受けに行くほど敷居が低いのですが、日本人はカウンセリングへの抵抗感が強いんです。産業保健師が会社にいることで、働く方のストレスコントロールを支援することができます。カウンセリングを身近に感じてもらうことで、メンタル不調をサポートしたいと思っています。学校の保健室のようなイメージで気軽に使ってほしいです。

社会に与えたい影響を教えてください。

佐藤 真弥

働いているなかで自分を追い込んでしまい、生きることがつらいと感じる方に対して、相談できる場所があるということを知ってほしいです。

仕事がつらいと感じながら、我慢して働いている方がたくさんいます。まず企業の健康管理室や保健師、いらっしゃらなければ衛生管理者に相談することができ、働き方や休み方を一緒に考えることができます。相談できる場が、企業にはあるんです。自分を追い詰める前に相談してほしいですし、自分のつらさを分かろうとしてくれる方がいることを知ってほしいです。

今まで保健師は大企業に属していることが多く、保健師が必要とされているものの中小企業では導入することができなかった現状がありました。ですが、コロナ禍でオンラインが発展したことで、中小企業でも保健師を導入する企業が増えていると感じます。

最近はメンタルヘルスの労災も増え、法改正によって保健師の必要性が社会に理解され始め、世間的に産業保健師のニーズは高まっていると思います。産業保健師として人のつらさに寄り添い、長期的に働く方やその家族の自殺率の低減、医療スタッフの離職防止につながれば、社会に貢献できたと感じられるでしょう。

最後に看護師さんにお伝えしたいことは、選択肢を広げることの大切さです。私はもともと、保健師になることを考えていなかったのですが、大学で単位を取っていたことで選択肢を広げることができました。諦めて自ら選択肢を狭めてしまうのはもったいないですし、いろいろな働き方があることを知ってほしいと思っています。

そして私が産業保健師になりたいと思ったときに、学べる場が少ないこと、仕事のイメージがつきづらいことなどがありました。そこで、今勤めている会社で「産業保健師スクール」というものを立ち上げました。

未経験からでも安心して学べるように、産業保健師とは何かという基本的なことから、具体的な事例や対応など専門的な内容まで、さらにはつまづきやすいエクセルなどビジネススキルなども学べるコンテンツとなっています。看護師資格さえあれば、誰でも0から始められます!

看護師資格だけでも働ける企業も多いため、看護師さんの受講者も多いですよ。定期的に現役保健師やゲストをお呼びしての無料ウェビナーも開催しています。少しでも興味がある方にはぜひアクセスしていただきたいですね。

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