- 視能訓練士を志す前は医師を目指していた。
- 西村さんは英語の先生からもらった医療従事者リストで視能訓練士の存在を知った。
- 全ての人が場所を問わずに質の高い眼科医療にアクセスできる社会を目指している
視能訓練士を志したきっかけを教えてください。

英語の先生に医療従事者の職業のリストを見せてもらったことです。
父や兄が産婦人科医として働いているため、最初は医師に憧れていました。
漠然と医師になることしか考えていなかったのですが、医学部の大学受験に失敗してしまったんです。浪人中に、英語の先生が医療従事者の職業をまとめたリストをくれました。リストを見てさまざまな職種があることを知り、その中で一番惹かれたのが視能訓練士でした。
元々眼に興味をもっていて、眼科医として働きたいと思っていたんです。また、当時日本には視能訓練士が8,000人程度しかいなかったことから、将来性を感じ、視能訓練士を目指し始めました。
実際に学んでみていかがでしたか?

眼の勉強がとても楽しかったです。
2016年に帝京大学医療技術学部視能矯正学科へ入学しました。眼の勉強はとても楽しかったですね。
大学4年生の頃、当時では珍しく視能訓練士として研究に尽力されていた広田先生と出会いました。広田先生との出会いがきっかけで、自分も研究をしたいと思うようになったんです。そこで、視能訓練士の国家資格を取得後、2020年に帝京大学大学院医療技術学研究科視能矯正学専攻博士前期課程に入学しました。
この頃は、子どもがスマートフォンを使うことで起こる眼の影響を研究していました。スマートフォンの普及が始まったタイミングから、子どもの内斜視が増えたといわれています。そこでスマートフォンを距離を変えて使用することによってもっと影響が出てくると考え、研究し、論文を発表し、学会賞をいただきました。
その後は複数の医療機関で働きながら、2023年からの1年間は帝京大学医療技術学部視能矯正学科の研究生として過ごしました。2023年以降は、株式会社OUI(以下OUl Inc.)、医療法人慶眼会横浜けいあい眼科和田町院、慶應義塾大学医学部眼科学教室の研究員として勤務し、吉田学園医療歯科専門学校の非常勤講師も務めています。
現在の活動について教えてください。

眼に関するさまざまな活動をしています。
今の活動を始めたきっかけは、元々横浜けいあい眼科の理事長で、OUI Inc.のCEOでもある眼科医の清水映輔さんに、Xで横浜けいあい眼科のアルバイトに勧誘してもらったことです。OUl Inc.のことは学生の頃からよく知っていて憧れだったので、清水さんからアルバイトの勧誘が来たことは光栄でした。
「世界の失明を50%減らし、眼から人々の健康を守る」というミッションにとても興味をひかれ、現在も仕事に携わらせていただいています。
最初は医療従事者として企業で働くことに対して抵抗もあり、戸惑いながら営業活動をしていました。しかし、次第に慣れてきて「ビジネスになりそうなことでやりたいことは何でもやって」と言ってもらえているので、今はやりたいことにどんどん挑戦しています。
私が入社した頃は、Smart Eye Cameraの販売がメインで、2年、3年と事業が継続していく中で、サービスが拡大していきました。今は新しいサービスを立ち上げることにやりがいを感じています。
現在の活動に詰まっている想いを教えてください。

世界の失明を50%減らすという株式会社OUIのミッションを大切にしています。
株式会社OUIの掲げるミッション「世界の失明を50%減らし、眼から人々の健康を守る」を軸に、さまざまな現場での活動に取り組んでいます。
現在は、企業や眼科クリニックでの診療、大学での研究や教育、在宅医療や発展途上国での支援など、幅広い分野で眼の健康に関わっています。立場や環境は違っても「どうすれば失明や視覚障害を減らせるか」を考える視点は共通しています。
例えば、健康経営に取り組む企業では「眼のケアによって仕事の生産性を高めるにはどうすれば良いか」を一緒に考えています。さらに、医療機関に通えない離島の方や在宅診療を受けている方に眼の検査を行うと、とても喜んでいただけます。
特に印象に残っているのは、ベトナムでの白内障手術ボランティアや、能登半島地震でのJMAT隊員としての支援活動です。医療資源が限られた中で必要な支援を届ける重要性を、日々感じています。
さまざまな現場で活動させてもらい、病院で働いていたら出会えない患者さまに出会えることは大きなやりがいです。
社会に与えたい影響を教えてください。

全ての人が場所を問わず質の高い眼科医療にアクセスできる社会を実現したいです。
日本でも眼科の医療が届いていない場所がたくさんあり、実はベトナムの診療で経験したような重度の白内障が、日本の在宅診療の現場でも起きています。
全ての人が質の高い眼科医療にアクセスできる社会にするため、ポータブル医療機器やAIを活用し、離島やへき地、在宅医療現場など、これまで眼科ケアが届かなかった人々へ眼科医療を届けていきたいと思っています。また、視覚を通じて生活の質(QOL)の向上を目指したいです。
さらに、視能訓練士の専門性をさらに発揮できる環境を整備し、早期発見・予防医療に貢献したいとも考えています。特に遠隔診療やAI技術と協働することで、患者さまがより快適で豊かな日常生活を送れるよう支援していきたいです。
医療従事者の読者に伝えたいことはありますか?

病院外にも健康課題がたくさんあります!
視能訓練士をはじめとした医療従事者の方々には、国家資格があるからこそ病院の外でも挑戦できると伝えたいです。
医療従事者は「病院で働くことが大切」と教わることが多いですが、健康課題は病院の外にもたくさんあります。やりたいことがあるなら、病院を飛び出して地域で活躍してみてほしいと思います。
自分のやりたいことを実現できる環境を見つけて、医療や社会に貢献する人がもっと増えてくれたらうれしいです。
西村裕樹(視能訓練士)
医療従事者の職業リストをきっかけに視能訓練士を志す。現在は株式会社OUIに所属し「世界の失明を50%減らし、眼から人々の健康を守る」というミッションに取り組んでいる。視能訓練士として臨床に出ながら、横浜けいあい眼科で在宅診療や遠隔診療の普及にも携わっている。視能矯正学修士。