- 高校時代の講演が人生を変えた原点
- 退学や上京、社会人経験を経て、看護師・助産師に
- 性教育が自然に根付く社会を目指して
助産師を目指したきっかけを教えてください。

高校生の時に受けた講演でした。
校長先生の奥さんが助産師さんで、学校に外部講師として来てくださったんです。感染症や妊娠の話だけではなく「一人ひとりがもっと自分を大切に生きていけるように」というメッセージが込められていて、それがものすごく心に残りました。
それまで、明確な夢があったわけではありません。でも、母子家庭で育っていて、女性の人権や、生きづらさのようなテーマにはどこか関心がありました。ただ、当時はそれらに関わる仕事をほとんど知らなかったですし、助産師というと「分娩に立ち会う仕事」くらいのイメージしかありませんでした。
講演を聞いたことで、助産師は出産だけではなく、その人が自分を大切にして生きることを支えられる職業なんだと知り、進路がはっきり見え始めました。私にとって助産師という仕事は、「人が自分を大切にして生きられるよう支える仕事」だったんだと思います。
医療の道に進むまでの経歴をお聞かせください。

退学や上京、社会人経験を経て、看護師と助産師を目指しました。
最初は地元の看護学校に入りましたが、性被害の二次被害の影響もあって退学しています。その後は上京せざるを得なくなり、経済的にも精神的にも進学を続けるのが難しくなって、一度は弁護士事務所などで働きました。
でも、どうしても諦めきれなかったんです。社会人として働く中で、働くお母さんたちや女性たちのリアルに触れて「やっぱり私は、こういう人たちを支えられる仕事がしたい」と改めて強く思い、もう一度進学の道を探し直して、看護学校に再入学しました。母と二人で上京し、二人三脚で生活を立て直しながら学校に通っていました。
再入学後は看護師資格を取得し、その後は助産師を目指して大学へ編入しました。助産師課程は実習も本当に濃くて、分娩介助だけでなく、家族が新しく形つくられていく場面に密に関わることになります。大変さはありましたが、それ以上に学びが多くて、患者さまやご家族からもらった言葉、年齢も背景も違う学生同士で支え合った経験が、今の土台になっています。
現在の活動を始めたのはなぜですか?

現場を知って、私が思い描いていた助産師像とのズレがありました。
助産師という仕事は分娩や産後ケアだけでなく、その人のライフステージ全体に寄り添うものだと思っていました。でも、実際には、業務の忙しさや限られた時間の中で、どうしても医療的な対応が中心になりやすく、家庭環境や経済状況、孤立、性の悩みなど、社会的に複雑な背景にまで目を向けることの難しさを感じる場面もありました。
看護師経験もあったので現場そのものへのギャップは少なかったものの「この時間は本当に自分のビジョンにつながっているのか」と考えるようになった時に、答えが曖昧になって、休職を決断しました。一言で言えば、電池切れでした。

休職中にSNS発信を始めました。
SNS発信を始めた理由はすごくシンプルで、元々性教育をやりたかったこと、そして休職中にできることを一旦やってみようと思ったことです。自分が助産師さんの講演に救われたように、情報がきっかけで人生の見え方が変わることを知っています。だから、今度は、自分が届ける側に回りたいと思いました。
今の活動は、性や体に関する正しい知識を誰もがアクセスしやすい形で届けることが目的です。将来的には性教育の講座やイベントも視野に入れながら、SNSを活用した発信を広げています。SNSで発信を続ける中で、100万回以上再生される動画も生まれ、少しずつ性教育に関する情報を多くの方に届けられるようになってきました。
今後、どんな社会を目指していますか?

まずは、もっと自分を大切にできる人を増やしたいです。
知識がなかったことで悩んだ経験も、正しい知識があったからこそ自分を守れた経験も、私自身の中にあります。だからこそ、性や身体のことを知らないまま不安になったり、自分を責めたりする人を減らしたいと思っています。
そのために今は、SNSでの発信だけではなく、もっと本質的な部分にも働きかけたいと考えています。最近は、女性の権利に光が当たる一方で、男性側の生きづらさや、男性が性の知識にアクセスしづらい現状もあると感じています。
私のフォロワーさんは90%以上が男性で、実際に男性からの質問や悩みに答える機会もよくあります。ただ性知識を伝えるだけでなく「本当の意味でお互いを尊重できる関係性とは何か」まで含めて、言葉の選び方や伝え方をかなり意識しています。

最終的には、性や身体のことを「身近で生活の一部として自然に語れる社会」にしたいです。
現在は、以前勤めていた助産師の資格を活かせるヘルスケアを中心とした企業に戻り、店舗事業部での販売やイベントにも関わりながら、自分の発信活動と並行して経験を積んでいます。
性教育の現場だけでなく、実際に商品を手に取るお客様の悩みを聞ける場所にいることも、私にとっては大きな学びです。今後は、働きながら自分の事業も育てていく、という形で進めていくつもりです。
最後に読者へメッセージをお願いします。

やりたいことは全部やった方がいいです!
やりたいことがあるのに、怖さや遠慮で止まってしまう人は多くいます。でも、私自身が回り道をしてきた経験から、やらなかったことよりやってみたことの方が、確実に自分を前に進めてくれたと感じています。
私のキャリアは、決して順風満帆ではありませんでした。退学もしたし、全然違う仕事もしたし、やっと資格を取っても「ここじゃない」と思って休職もしました。でも、その全部が今の活動につながっています。
病院の外に出ることが怖い人も、発信することに自信がない人も、完璧に準備が整うのを待たなくていいと思っています。まずは、自分が本当にやりたいことに正直になること。そこから始めてみてください。小さな一歩が、思っている以上に大きく人生を動かすことがあります。





辻本愛菜(助産師)
高校時代に出会った助産師の講演をきっかけに「自分を大切に生きることを支える仕事」として助産師を志す。退学や上京、社会人経験を経て看護師・助産師資格を取得するも、現場での違和感から休職を決断。現在は、SNSで性や身体に関する正しい知識を発信している。講演やイベント、YouTube、店舗現場での経験も重ねながら、性教育をもっと自然に語れる社会を目指して活動中。