立ちはだかる医療の課題と地域で見つけたそのSolution!【舛森悠 / 医師】

舛森 悠(ますもり ゆう)

2013年に医学部へ入学し、卒業後は北海道の総合診療医として従事。2020年にYoutube医療大学を開始する(現在チャンネル登録者数40万人)。2023年には「はこだて暮らしの保健室」を開始し、同年に一般社団法人「とまりぎケア」を立ち上げ、地域に医療の繋がりを広げている。
hospass運営局

こんにちは、hospass運営局です。“病院はパスする時代”を創造するべく、医療職限定でチームを組み活動を進めています。

医師の資格を持ち、現在はYoutube、在宅医など多岐にわたり活躍中。医療に対する課題に向き合い、地域に医療を広げる活動をしている舛森さんを取材させて頂きました!

記事の見どころ
  • 医療職になろうと思ったきっかけ
  • 今後の展望や思い
  • 読者に伝えたいこと

医師になろうと思ったきっかけを教えてください。

舛森 悠

「人に優しくしたい」という気持ちに正直になりました。

もともと理系を専攻していて、高校3年の夏まで宇宙工学を専門にしようと本気で考えていました。過去に高校受験で失敗したこともあって、受験に自身があまり持てずにいて、そんな時に塾の講師に「気分転換に講演会に行ってみないか」と誘われ、アフリカのウガンダで写真家をされている方の講演に参加することになりました。

今思えば、僕が医者を目指す転機になったのかなと思います。

参加した講演に出てくる写真たちは、貧困地域でありながらも屈託のない笑顔で暮らす子どもたちの写真ばかりでした。その一方で、紛争や地雷の被害に遭う子どもたちが存在していることも表現されていて

「何とかしてあげたい!!」と僕の心が動き始めました。

この講演を聞いて、自分の置かれている環境が恵まれていることが分かりました。その日から僕は「例え偽善でも、人に優しくしたい。」と考えるようになり、僕の中で1番人のためになりそうな職業が医師だったため、医学の道を進むことに決めました。

僕は人が好きなので、こんなにも多くの方々から学ばせてもらえる仕事は、他にはないと思っています。だからこそ、今はこの職業を選んだことは、全く後悔していません。

どんな学生生活を送っていましたか?

舛森 悠

実習で「人の面白さ」に気づきました。

正直に話すと勉強はそっちの気で、部活とバイトに打ち込んだ6年間でした。部活では、テニスとボランティア部に所属し、部長も経験しました。

ボランティア部で、難病を抱える子どもたちに支援をさせていただいたり、未来ある子どもたちへの医学教育を行なったり、多くのこと経験させてもらいました。社会貢献や人の役に立つことの経験は、自分の中にあるモヤモヤを取り払ってくれました。

特に印象に残っているのは、地域実習です。今でもいい経験として培われているなと感じます。多くの現場を見させてもらう中で、さまざまな形の素敵な医療と出会えました。

しかし、一方で多くの寝たきりの患者さまを前に、課題に感じる部分も多くありました。寝たきりの方に自分には何ができるのか、考えるきっかけになり大変良い経験となっています。

また、医学だけではない「人の面白さ」にも気づくきっかけになりました。一人一人の人生があり、生活のくせやこだわりがあります。教科書通りにはいかない現実で、それぞれに合わせ伴走できる営みが、医師としてやりがいを感じています。僕はその「寄り添い、伴走している」感覚が好きで、総合診療や在宅医という働き方を選択しました。

現在も総合診療で勤めていますが、「病気を診る」という感覚ではなく「人生をみて、一緒に伴走していく」そんな感覚があります。

YouTubeを始めたきっかけや想いを教えてください。

舛森 悠

病気が進行する前に、患者さまに出会えるように意識しています。

YouTubeを始めたきっかけは、コロナで生活がガラリと変わったことによって、自分の時間が余ってしまい、勉強のアウトプットとして活用していました。あとは、自分でお金を稼ぐ大変さや事業を回していく感覚を養うために始めてみたことがきっかけです。

最初は、自分のアウトプットやスキルアップのつもりで始めてみましたが、だんだん患者さんへ伝えたい思いが強くなっていきました。それに伴い、内容も医療従事者向けから患者さま向けへと変化した流れです。

普段の診療で、僕たち医師が患者さまに関われる時間は限られています。その限られた時間の中では、検査結果や体調についてなど、今の症状について聞くことばかりになってしまいます。

「生活習慣や予防に関しても話したいのに時間がない。」

時間制約の中で、伝えたくても伝えられない部分を、YouTubeで発信しています。

動画内容は「あの患者さまにこのこと話したかったな」と思ったことをメインにさせてもらっています。そこから、ありがたいことにYouTubeも順調に登録者数が伸び始めました。(2023/12/08時点:チャンネル登録者数約40万人)

これからも少しずつ健康の知識を、たくさんの方々に届けられると嬉しいです。病気の進行が進んでしまう前に、もっと早く患者さまと出会える活動をしていきたいと思います。

現在の事業を始めたきっかけや想いを教えてください。

舛森 悠

北海道の函館で、社会との繋がりを処方していきます。

「はこだて暮らしの保健室」は、医療従事者がチームになって、地域の方々と交流できる場を設けようという試みをしています。健康に関する相談でも、介護に関する相談でも、なんの話でも良いので、地域の方々の「心の拠り所」になればいいなと思っています。

また、コロナにより地域が分断されてしまったものを取り戻すため、「社会との繋がりを処方する」ことを掲げて活動しております地域活動をしていたら、たまたまその場に医師がいて「ついでに健康相談してみるか」と思ってもらえるような、そんな肩の力を抜いた状態が理想的ですね(笑)

あとはYouTubeでは届かない方たちにも、健康情報をお届けできればと思っています。健康意識の高い人たちは、どんどん情報を手に入れ健康になっていくのに対して、そうでない人たちに、なかなか情報が届くことはありません。

まずはコーヒーなど親しめるものを用意して、いつでも相談に乗れる医療従事者が、身近である環境づくりをしていければいいなと思っています。

医療従事者が一方的に健康を押し付けることは違います。一人一人が、対話の中で人生や健康観を見直したり、思いもしない繋がりが生まれて、地域全体が活性化していく。そんな場所をデザインしていきたいと考えています。

医療従事者がまちに出て、気軽に何でも相談できる「暮らしの保健室」で、まちの健康を作っていきたいです。

今後の展望について教えてください。

舛森 悠

どんな人も生きやすい社会を作っていきたいと思っています。

まずは1つ目は、予防医療の普及をしていき、日本人の健康寿命を延伸させていきたいと思っています。

嬉しいことに、Youtubeを始めとするSNSで、情報を簡単に発信できる時代になりました。病院では、なかなか難しい予防の普及もSNSを通して発信し、受け取って下さる方々が健康に過ごせたら嬉しいです。

また、今回2024年1月18日(木)に本も出版されます。この本を手に取り、少しでもたくさんの方に健康をお届けできることを願っております。

2つ目として、地域づくり・街づくりをしていけたらと思っています。

病気になる原因の半分は、その人の生まれた地域や経済的状況など環境にあると言われています。しかし、病気を患いながらも幸せに暮らしている方たちは、たくさんいらっしゃいます。生活の中に医療従事者が伴走できる社会をあたりまえにして、病気を忘れるくらい笑顔で暮らしていける、そんな社会を作っていきたいです。

そのためには、医療介護福祉の地域ネットワークが重要なピースです。医療従事者や地域の方々が1つのチームとなって、地域を丸ごと診ていくような「社会的処方」を目指し、活動を続けていきたいと思います。

最後に読者に伝えたいことはありますか?

舛森 悠

不安を小脇に抱えて一歩踏み出してください!

僕も挑戦する際は不安だらけでした。特に、Youtubeを始めた時は、周りの知人からの風当たりが強かったことを覚えています。だからこそ、不安や怖いと思う気持ちは痛いほど分かります。

ただ「やりたい」と思うことがあるなら、不安を小脇に抱えて一歩踏み出してみてください。最初は些細なことでも、なんでも構いません。完璧なんて求めなくて大丈夫です。小さなことから始めてみて、たくさん失敗と成功を繰り返し、PDCAを回していきましょう。
そうすると不思議と、楽しくて止まらなくなると思います。ですので、不安を抱えているみなさん、ワクワクする未来を想像して、ぜひ一歩踏み出してみてください。

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