取材日:2023/10/25
こんにちは、hospass運営局です。“病院はパスする時代”を創造するべく、医療職限定でチームを組み活動を進めています。
看護師の資格を持ちつつ、現在障がいがある方やそのご家族の外出・旅行同行サービス、民間救急事業を行なっている内田さんと中山さんを取材させていただきました。
- 現在の事業を始めたきっかけ
- 現在の事業内容
- 社会へ与えたい影響
お二人が看護師を目指したきっかけを教えてください。
身体を資本にした仕事をしたいと思ったことがきっかけです。
母が看護師だったことがきっかけです。
(内田)高校生で職業選択を迫られたとき、小学生からバスケットボールをしていて身体が丈夫だったので、身体を資本にした仕事がしたいと思ったんです。
救急救命士や警察官、理学療法士などの職業と悩みましたが、学校の先生から自分の学校から看護師、しかも男性の看護師は輩出されていないと聞き、人と違うことがしたいと思い看護師になることを決意しました。
私が進学した大学は新設して2年目で、大学側もカリキュラムを模索中でした。他大の看護学生が学んでいない内容も学べたのは、今でも貴重な経験です。
(中山)看護師の母が女手ひとつで私を含めて3人の子どもを育ててくれたんです。女性一人で子どもを育てることは大変だというのに、私自身幼少期に少し寂しかった記憶があるくらいで辛い思いはしなかったんです。
それが理由で、母を尊敬すると同時に看護師を志すようになりました。
中学卒業のときに、母に看護師になりたいと相談したところ「向いてないから手に職をつけたほうがいいよ」と言われ工業高校に進学したんです。
工業高校でさまざまな資格を取ったのですが、工業系は合わないと感じ、やはり看護師になりたいと思い看護師の専門学校に進みました。
お二人はどこで出会ったのですか?
同じ病院の高度救命救急センターで同僚として出会いました。
(内田)実は大学での4年間、看護師は自分に合わないのでは?と感じたことに加え、アルバイトで経験していた飲食業に楽しさを見いだし、卒業後1年は飲食店で働いていたんです。
看護師として就職したきっかけは、飲食店に来たお客さまから「看護師ならうちの病院で働きなよ」と声をかけられたことです。
その当初はどなたか分からなかったのですが、実は日本医科大学附属病院の人事部長をされていた方で、お会いした次の日に速達で病院の案内が送られてきました(笑)
最初は脳神経内科に配属されましたが、看護師として看護ケアや急変時の対応の際に次の一手を読めるようになりたいと考えて、高度救命救急センターに希望を出して4年目で異動しました。
(中山)専門学校を卒業後、日本医科大学に就職しました。
最初は希望していた高度救命救急センターへの配属は叶わなかったのですが、1年後に空きができて2年目で異動することができ、そこで内田と出会ったんです。いろいろな話をするなかで意気投合しましたね。
内田は先輩だったのですが、ほかの診療科から来た自分としては、「こんなことできるんだ」と看護師としての技術がすごいと感じたんです。あとは、人としても面白いなと思いましたね。
(内田)私も、中山が異動してきた瞬間に「似た人が来たな」と感じました(笑)救命センターは120人ぐらいの看護師を8つのチームに分けて、チームごとにサポートをする形をとっているんです。
ちょうどその頃、私がチームのリーダー役で中山に同じサポートチームに入ってもらって一緒に働いたのが最初ですね。
現在の事業を始めたきっかけを教えてください。
患者さまとご家族の「もっとこうしておけばよかった」という後悔を減らしたいと思ったことがきっかけです。
(中山)救命センターは生死に関わる場所で、良くなった方に携わる一方で、救えなかった命もあります。
「もっとこうしておけばよかった」という後悔の想いに触れることもあり、看護師として培った経験や知識を基に、患者さまとご家族に何かできないかと考えるようになりました。
そんなとき、コロナ禍で患者さまにご家族が会えない状況になり、いよいよ「患者さまとご家族がやりたいことをやりたいときにやれるサポート」が必要だと考えました。
日本は、欧米に比べたらまだまだバリアフリーが進んでいないんです。健常者は障がい者や病気の方々の生活がイメージできないせいか、日本は先進国のなかでもあまりサービスが充実していません。
看護師の自分ならば、いろいろなことに気づくことができると思い、旅行同行支援事業の準備を始め、2023年に『株式会社Grit』を設立しました。
(内田)私も同じような患者さまとご家族をみてきて、医療機関の中ではできることとできないことがあると考えていたんです。
コロナ禍でますます患者さまとご家族がダメージを負う世の中になってしまったと感じると同時に、コロナが明けたら外出したいという想いがまた出てくるはずだと思いました。
そこで、医療従事者の外出同行の分野に携わる方はまだまだ少ないので、2人で頑張って進めていきたいと思ったんです。
もともと中山から起業の相談を受けるまでは、起業を考えてはいませんでした。
ただ、漠然と自分のキャリアをどうしようかと考えてはいたので、中山から話を聞いてこれからやることすべてが初めての経験なんだと思うと、不安半分、やってやるぞという気持ち半分といった形でしたね。
現在行なっている事業に関して教えてください。
障がいや病気があり外出や旅行ができない方、または諦めている方、その当事者・ご家族に向けた外出・旅行の同行事業などをしています。
(内田)1つ目は、外出・旅行同行サービスです。救命センターでの経験を生かし、看護師の同行で安心安全に、不安なく外出や旅行を楽しんでいただくサービスです。
2つ目は、民間救急事業です。医療機関間の転院・退院を行う医療特化型の搬送事業も行なっています。
(中山)旅行同行支援事業の分野は、まだまだニッチで法的にも整備されていないので、今業界に参入したら法整備や仕組み作りにも関わることができるかもしれないと感じ、とにかくやりたいと思って事業を始めました。
自分の知識や技術は、病院以外でも役立たせることができると思っています。
(内田)自分たちは起業に向けてのノウハウがなかったので、伴走者を探すために『東京創業ステーション』という起業準備のサポート窓口に足を運んでいたんです。
アイディアを肉付けしてどのような内容で事業をしていくのか、セミナーを受けることで足りない知識を補っていきましたね。
医療従事者のなかで想いを共有することはありましたが、医療職ではない方に事業の説明をする方法など何も分からなかったので、1年間ひたすら学びました。
(中山)設立後、すぐにお客さまがついたというわけではなかったんです。銀行の融資や国交相からの許認可など、準備にとにかく時間がかかりまして、約5か月後から依頼を受け始めました。
設立から事業開始までは時間がかかりましたね。
事業に詰まっている想いを教えてください。
困っている方を助けたいという気持ちです。
(内田)病気や障がいがあっても自分らしくいてほしい。『「行けない」を「行ける」に、「行ける場所」ではなく「行きたい場所」へ』というビジョンを持って活動しています。
病院から離れて、私たちのような外出同行といった事業は必要とされていることを改めて実感しました。まだまだこれからですけど頑張りたいです。
(中山)健康は失ってから気づくのと同じで、健常者のときにはどんな助けが必要なのかわからないことが多いんです。
今困っている方に対して、何か一つでも手を差し伸べることで壁を乗り越えられるなら、そのサポートに携わりたいですね。
外出同行や搬送を終えた後に、これがやりたいことだったよねと2人で話すことがあり、病院から離れてチャレンジして良かったと思っています。
実は勤めていた病院を辞めてから、その病院の看護部長から「面白いことやってるね。話聞かせて」と声をかけてもらったんです。離れたことで応援されることが増えたと感じています。
社会に与えたい影響や読者に伝えたいことを教えてください。
私たちのような同行サービスがあることを知ってほしいです。
(内田)ユニバーサルツーリズム市場が多くの方に認知され利用いただける、費用面での障壁を軽減できるシステムを構築したいです。同じ事業をしている若手同士で、業界を盛り上げていきたいという話もしています。
学会にも足を運んで認知度を上げて、他職種とのつながりも作っていきたいです。ニーズが増えてきたら車両を増やし、同じ志を持つ仲間も増やしていきたいと思っています。
読者の方には、医療機関を飛び出して私たちのような働き方をしている看護師がいるんだと伝えたいです。
フリーランスという働き方も増えてきているので、今後のキャリアの選択肢の一つに入れてほしいです。
また、看護師全体の3割に満たない男性看護師を盛り上げていきましょう。
(中山)一人でも多くの方に私達のサービスを使っていただいて、笑顔になっていただきたいです。
より大きな目標は、国を巻き込んで費用助成をいただくことでよりサービスを使いやすくして、病気や障がいを持つ方も楽しめる世の中を創りたいです。
読者の方には、私達のサービスを通じてより良い看護や医療を提供してほしいと思っています。
私たちが、医療機関だけでは手が届かないサービスを提供していくので、医療機関を受診している患者さま、ご家族に紹介いただければと思います。
内田 祐介 中山 隼輔(うちだ ゆうすけ なかやま しゅんすけ)
看護師として高度救命救急センターの同僚として出会い、同じ志を持ち意気投合。現在は『株式会社Grit』を設立し、その人らしい人生を送ることができるように
看護師による外出・旅行同行サービス、民間救急事業を展開している。