取材日:2023/11/29
こんにちは、hospass運営局です。“病院はパスする時代”を創造するべく、医療職限定でチームを組み活動を進めています。
医師免許を持ちつつ、現在は弁護士として活躍されている中村さんを取材させて頂きました!
- 現在の活動を始めたきっかけ
- 社会へ与えたい影響
- 活動に込められた想い
医師になろうと思ったきっかけを教えてください。
社会に貢献したいという想いから医師を志しました。
もともと親族に医師が多かったこともあり、医療職は身近な存在だったんです。
医師である祖父が患者さまから感謝されている姿を見たり、家族が患者さまとの向き合い方や医療の在り方について意見を交わすのを聞いたりするなかで、幼い頃から医療職として社会に貢献したいと考えるようになっていました。
実家が動物病院を経営していたこともあり、実は医師と獣医師のどちらになるのか悩んでいた時期もあったんです。
親族以外の医師や獣医師にインタビューをしたり、いずれの分野でも最先端であるアメリカの大学のキャンパスツアーに行ったりして考えた結果、直接的に人を助けることに携わりたいと思い、医師を目指しました。
医学部に入学するまでは医師という職業は抽象的な憧れだったのですが、勉強や実習をしていくなかで具体的なイメージを持てるようになったんです。
特に、学生時代に東日本大震災を経験してボランティア活動にいったことで、医療者に対する期待の高さや医療者の社会における役割を実感し、医師になりたいという想いが強くなりました。
大学卒業後の経歴を教えてください。
初期研修後は、ロースクールに進学して、現在は医療法務弁護士として働いています。
地元の浜松医科大学を卒業後、京都大学医学部附属病院(京大病院)で初期研修を行い、そのまま京大病院の初期診療・救急科に入局しました。
それまではずっと静岡で過ごしていたので、生まれ育った場所を飛び出して世界水準の医療を学んだり世界中から集まる人々と交流してみたいという想いもあったんです。
研修医時代は幅広い診療科を回り、基本的な手技や臨床医としての考え方のトレーニングを受けられて楽しかったですし有意義な時間でした。
京都大学は自由と多様性を重視していて、人と異なる道に進むことも許容される文化があり、多様なバックグラウンドや専門を持つ医師が何人もいらっしゃいました。自然と自分自身のキャリアについて考え、法科大学院で法律実務を学ぶことも選択肢に入るようになったんです。
当時の教授やスタッフの先生方が応援してくれてすごくありがたかったですね。その後は京都大学法科大学院、最高裁判所司法研修所を経て、2023年からは弁護士法人大江橋法律事務所で勤務しています。
現在は、弁護土の仕事に100%の時間を割いています。ダブルライセンスということで臨床医との二刀流を期待されることもあります。
しかし、依頼者が医療関連の仕事を依頼してくださるときは弁護士としての能力を期待されているので、24時間365日弁護士として仕事に集中するべきだと考えています。
日々の業務としては、主に契約書作成、法律・労務相談などの企業法務です。それに加えて、臨床倫理相談を中心とする医療安全やヘルスケア分野のベンチャー支援に注力しています。
現在の活動を始めたきっかけを教えてください。
アメリカで理想の医師に出会い、自分でも理想の医療を実現するための手段として弁護士の資格を取得しました。
医学部生時代に、米国のクリニックを何か所か見学していたとき、ロサンゼルスで会員制医療サービス(コンシェルジュ医療)を提供するコンシェルジュドクターに出会いました。
患者さま一人ひとりに対して30~60分の診療や相談の時間を確保して、患者さまと向き合うことを大切にしていたんです。診察や治療を行うだけではなく、緊急時には医療代理人として病院受診に同行し、患者さんの意思決定を支援することもあり、顧問弁護士のような存在でした。
コンシェルジュドクターこそ幼い頃から思い描いていた理想の医師像であって、このような医療を自分の家族にも受けてもらいたいと感じたんです。医療代理人やヘルスケアサービスに強い関心を持った瞬間でもありました。
大学卒業時点では、臨床経験を積み、コンシェルジュドクターになることも考えていたんです。他方で、臨床での経験から患者さまの意思決定について理解を深めたい気持ちもありました。
いずれにせよ、まずは社会保障制度や代理人制度について勉強する必要を感じ、法科大学院に進学する選択をしたんです。その後は、病院に戻って法曹資格を持つ救急医として勤務する予定でした。
法科大学院に入学してからは、憲法、民法、刑法などの主要科目に加えて、「生命倫理と法」「社会保障法」「医療訴訟の現状と課題」などの選択科目も受講できました。
法律家の考え方を学びつつ、自分が課題に感じていた医療現場の問題を法的側面から考える貴重な機会を得られましたね。
法学部出身の同級生たちに自分の問題意識について聞いてもらったり、実務家の先生方と自分のキャリアについて意見交換をしたりしました。
その過程で、医学知識や臨床経験を活かして病院の外で仕事をすることも医療職としての社会貢献になるのではないか、また病院の外で得た知見を基に臨床現場の問題を解決できるのではないかという考えに至ったんです。
法科大学院での3年間を経験したことで、従来の考え方を変えて医師資格を持つ弁護士としてキャリアを切り開いていく覚悟を決めることができました。
活動に込められた想いを教えてください。
自分の家族にも受けてほしい医療を実現したいです!
学生のときから挑戦したいことは変わっていません。根源となっているのは、「自分の家族にも受けてほしい医療を実現したい」という想いです。
その想いを実現するための手段の一つとして、医療訴訟の代理人とは異なる存在として医療機関の中に弁護士がいて、患者さまの意思決定をサポートできる仕組みを日本中の病院やクリニックに広めていきたいです。
現在、病院の医療安全管理部や臨床倫理コンサルテーションチームとの協業に取り組んでいます。
これは医療訴訟という有事のときだけ弁護士が関与するのではなく、平時の日常診療から継続的に医療者との意見交換や臨床倫理の問題解決を行うために弁護士が関与する点で新しい取り組みです。
兄弟間での臓器移植における利益相反の問題や、がん遺伝子パネル検査という新しい技術に伴う患者本人の個人情報保護の問題など、医療現場のなかでこれまで整理されてこなかった問題を法的観点から整理しています。
また、私自身が病院の外に出てから強く感じるようになりましたが、医療現場の問題は必ずしも病院内だけで解決する必要はありません。医療者が臨床現場における問題を発見して、自らが起業して新たなプロダクトやサービスを提供するという流れが生まれています。
自分の家族にも受けてほしい医療の実現という尺度からは、ヘルスケア分野で企業や起業家を法的観点から支援することも、臨床現場で日々生じる問題を解決することと同じくらい重要な仕事だと考えています。
企業や起業家の挑戦を弁護士としてサポートできるようにベストを尽くしていきたいです。
活動・事業を通して、社会の何に影響を与えたいですか?
日々の臨床現場でも法律家が役立てる場面があることを医療業界に広めていきたいと思っています!
医療訴訟という有事にピンポイントで弁護士が関わるのではなく、平時から継続的に弁護士が関わることを当たり前にしたいです。
病院は、数百人数千人のスタッフがいる大企業と同規模にもかかわらず、法律家が一人もいないことが珍しくありません。法律家は、病院のリスク管理やルールづくりという場面でも、患者さまの権利擁護という場面でも役立つ専門職です。
臨床現場では、患者さまの意思決定プロセスや自己決定権が問題になる場面が多く、医学的判断や生活環境だけでなく法的視点も考慮されるような医療を実現したいです。
アメリカでは、法律家や宗教家も病院内に所属しており、様々な職種が患者さんの治療方針などを巡って話し合いがなされています。
何が患者さまにとってベストであるかについて、医療者だけでなく異なるバックグラウンドを持つメンバーが議論に加わって、そこに患者さまも参加できる医療を日本でも広めていきたいです。
私には、医療者のバックグラウンドを持っていることで、医療者の方々と円滑にコミュニケーションが取れるという強みがあります。それを活かして医療現場が抱える様々な課題について、率直な意見交換を重ねて、患者様のために、医学的、法的、そして倫理的に妥当な解決策を見出していきたいです。
その積み重ねが自分の家族にも受けてほしい理想の医療を実現することにつながるのだと信じています。
中村 信太朗(医師)
医師の資格を取得後は大学病院や救急外来での研修を経て、
理想の医療の実現のために弁護士資格を取得。
現在は医師免許を持つ弁護士として、
臨床倫理相談やヘルスケア法務に注力している。