薬物療法以外に精神疾患の治療法があることを知ってほしい!【日髙貴浩 / 作業療法士】

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日髙貴浩(作業療法士)

作業療法士として病院に就職するも、適応障害を患い退職。同じ経験を持つ方の助けをしたいとカウンセリング事業を立ち上げる。オンラインカウンセリングでの認知行動療法、オンラインサロンを通してお客さまのサポートをしている。

記事の見どころ
  • 手に職をつけたいと考えて、作業療法士を目指した。
  • 入職後に精神疾患を患ったことをきっかけに、カウンセリング事業を立ち上げた。
  • 薬物療法以外にも精神疾患の治療法があることを知ってほしい。

作業療法士を目指したきっかけを教えてください

日髙 貴浩

手に職をつけたいと思ったからです。

将来のことを考えた時、手に職をつけたいと思い、医療従事者を目指しました。

理学療法士と迷ったのですが、結果的に作業療法士を選びましたね。介護職である母に勧められたことが大きな理由です。

入学後は、勉強についていくのが必死でした。座学についていけず、留年したことがあるんです。留年した時に「自分は作業療法士に向いていないんじゃないか」と強く思って、一時期は退学も考えましたが、恩師にあたる学校の先生が話し合いの場を設けてくださって、仕事のことを熱心に話してくれました。その時の話を聞いて退学しないと決め、学校に通い続けて資格を取ることができました。

実習で患者さまと触れ合うことにはやりがいを持てていたので、あの時に話をしてくれた恩師に感謝しています。

作業療法士として働き始めてみていかがでしたか?

日髙 貴浩

気持ちとは裏腹に身体がついていかなくなりました。

卒業後は病院に就職しました。就職した病院は、先輩も優しくすごく恵まれた環境だったと思います。しかし、自分でも気づかない間にストレスを溜めていたのか、適応障害を患ってしまいました。

本当に良い職場環境だったので働き続けたかったのですが、その気持ちとは裏腹に身体がついていかなかったんです。

何とか3年は働きましたが、結局辞めることにしました。職場の方が良くしてくださっていたので、もったいないことをしたとは思っていましたし、期待に応えられなかったと自分を責めたこともありました。

病院を辞めたことは後悔していませんが、今振り返ると、恵まれた環境だったからこそ頑張り過ぎてしまったのだと思います。

現在の事業を始めたきっかけを教えてください

日髙 貴浩

薬物療法以外で精神疾患を治す方法があるのではないかと思ったからです。

現在、精神医療現場では医療を必要とする患者さまで溢れています。薬物療法を受けている患者さまも多く、もちろん薬物療法で良くなる方もたくさんいらっしゃいますが、薬物療法で苦しい思いをされる方も少なからずいると思うんです。

私自身も精神疾患を患った経験があるので、薬物療法とは違う方法で、苦しんでいる方の役に立てるのではないかと考えるようになりました。

そこで私が目をつけた方法が「カウンセリング」です。医療現場から離れた場所で自分にできることがあるのではないかと考えたときに、心理療法を実践することで精神疾患の解決のサポートができるのではないかと思いました。

現在の事業内容を教えてください

日髙 貴浩

カウンセリング事業を行っています。

パニック障害や不安症の方の症状の改善に向けて、オンラインで認知行動療法を用いたサポートをしています。

認知行動療法は、簡単にいえば、自分自身の考え方の癖や行動を見直すことで心を楽にする心理療法です。さまざまな心理療法がありますが、世界的に主流で自分が最もしっくりきたので、認知行動療法を取り入れることに決めました。

認知行動療法では、一方的に私から話をするわけではなく、関係性を築いて一緒に解決策を探すことを大切にしています。実際に認知行動療法を受けたお客さまは、どうやったら問題を解決できるのかに気づきを得ていく方が多く、私自身のやりがいにもなっています。

一般的には1回30分を週に1度、3ヵ月程度の期間でカウンセリングを実施しています。それ以降は続ける方もいれば、卒業していかれる方もいます。

認知行動療法以外に、オンラインサロンの主催もしています。週に1度Zoomを開催し「パニック障害のメカニズム」「不安を克服するために」などのテーマを決めて、みんなで学ぶ機会にしていますね。最後には質問タイムも設けています。

オンラインサロンを立ち上げた理由は「認知行動療法を受けたいけれど、価格が高いため続けられない」という方がいらっしゃる現状があったからです。誰もが気軽に参加できるようなコミュニティを作りたいと考えて、低価格で参加できるオンラインサロンを立ち上げました。

現在の事業に詰まっている想いを教えてください

日髙 貴浩

治療方法の視野を広げてほしいです。

精神疾患を患っている方や支えている家族の方に、薬物療法以外にも治療法があることを知ってほしいですね。

世間一般では、精神疾患の治療法というと薬物療法をイメージされる方が多いと思います。しかし、薬物療法にこだわらず治療法の視野を広げると、自分自身が良い方向に向かう可能性が高まります。

また、精神疾患を患っている方が希望を持つお手伝いがしたいという想いもあります。
精神科の先生の中には「精神疾患は良くならないから一生付き合っていかなければならない」と患者さまに伝える方もいらっしゃいますが、一生付き合っていくと言われると、不安に感じる方も多いです。精神疾患を患っていても、あきらめずに自分と向き合えば改善に向かっていくので希望を持ってほしいです。

社会に与えたい影響を教えてください

日髙 貴浩

薬物療法以外にも治療法があることを伝えたいです。

カウンセリングを通して、メンタル疾患を改善できるということを社会に伝えたいですね。自分自身も精神疾患を患っていましたが、今はこうして事業をできています。根性論になってしまいますが、自分と向き合っていけば改善していくと伝えたいです。

日本ではまだカウンセリングが普及していません。今は1人で活動しているので社会への影響力は小さいかもしれませんが、私が関わった方には、薬物療法以外に治療法があると知ってくれたら嬉しいです。

まずは自分のできる範囲で活動して、認知行動療法やオンラインサロンで関わる方を増やしていきたいと思います。

医療従事者のみなさんは、やりたいことがあるならば、形にとらわれず挑戦してみてほしいです。私は作業療法士の資格を持ちつつ、作業療法士から形を変えて、お客さまのサポートをしています。今は病院以外で働いている方も増えてきているので、病院にとらわれなくても良いと思います。

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