- 3歳の頃に急に臓器に興味を持ち、医師になりたいと思った!?
- 自身の最後を意識したことで、アートを創作して人生を終えたいと思った。
- 人間が抱えている負の感情をアートに昇華させ、当事者以外にも共有したいと考える。
医師になったきっかけについて教えてください

人の生死に最も密接に関わり、感謝の言葉がいただけるためです。
私は、幼少期の頃から人体模型をずっと触っていたり、大人が服用している薬を収集し図鑑にしたりして遊んでいた変わった子供でした。3歳頃には急に「臓器」に興味を持ち始め、医師になりたいという気持ちが芽生えたのです。
また、同居していた祖母は複数の病気を抱えていました。祖母は病気の話が多かったので、根本的に病気を治してあげたいと思うようになったのです。
中学生の頃からは「人に感謝されたい」「認められたい」という気持ちが強くなりました。人の命を助けたり、病を抱えている方の悩みを解消したりすることは、やりがいもあるし感謝もされると考えたのです。
そのため、人の生死に最も密接に関わり、感謝の言葉もいただける医師を目指したいと思いましたね。
医学部に入学後は、実習で大学病院にいきました。私は大学病院で多くの患者さんが、主治医の診察を待っている光景を目の当たりにしたのです。患者さんは早く診察を望んでいるはずなのに、すぐに診てもらえない状況がもどかしく感じました。
私は早く医師になり「一刻も早く待っている方を診察してあげたい」という気持ちになったのです。
総合診療医を目指した理由について教えてください

難解な症状から診断を導き、人の人生に寄り添い生死に関われると思ったからです。
初期研修では多疾患併存のある高齢の方が多く「治療は年だから頑張らなくていいんじゃない?」という言葉などを聞き、医療が切ないと感じるようになりました。医師として働いてもゴールが見えない医療に嫌気がさし、元々が興味あった総合診療医や内科になることから逃げたいと思ったのです。
そのため、総合診療に共通点が多く、小児から高齢者まで幅広く診れる皮膚科の医局に所属することにしました。また、皮膚科は人々のQOLに直結する科であることや、美容医療などにも近く未来志向型の科であると感じたのです。
しかし、実際に働き始めると、モヤモヤとした気持ちが出てきました。私は皮膚だけ診る医師ではなく「皮膚診療を通じて内科診療、ひいては人間全体を診る診療」を行いたかったのだと改めて感じたのです。
その後は、総合診療医に進路変更を行い気持ちが楽になりました。難解な症状から診断を導き出したり、人の人生に寄り添いながら生死に関わったりできる総合診療医が、自分の中で一番合っていると思います。
現在の事業を行うきっかけについて教えてください

自分の最後を意識したことで、何かをクリエイトしてこの世に作品を残したいと思いました。
医学部5、6年生のときに現代アートにハマりました。私も「このような世界を作れたらどんなに楽しいだろう」と夢に思うようになったのです。3歳のときに医師になりたいと強く思ったあの熱量を、23歳で再び自分の中に感じてしまいました。
しかし、医師になる手前だったので、夢を実現することは難しいと思ったのです。
医師になってからは、様々な患者さんを診てきました。お年寄りが天寿を全うして老衰で死ぬこともあれば、癌を罹って亡くなることもあります。また、私と同じ年齢の20代の方が交通事故で運ばれてきて、亡くなってしまうこともありました。
このように、患者さんの死に触れることが多く、私自身の中でも強く「死」を意識したのです。自分の最後をどのように迎えたいか考えるようになりました。
自分の最後をを意識するようになってから、医学部5、6年生だったときのクリエイトしたい思いが込み上げてきて画家として死にたいなって思ったんです。また、私は「何かをクリエイトしてこの世に作品を残したい」と考えるようになりましたね。
そのため、ずっとやりたいと考えていた現代アートの制作を試みました。最初は40歳頃から始めようと思いましたが、それでは遅いなと感じるようになったのです。とにかく人生を後悔したくない気持ちが強かったですね。
現在の事業内容について教えてください

総合診療医として勤務している傍ら、画家として活動をしています。
現在は群馬県で総合診療医としてメインで勤務している病院のほかに、補助として県内の複数の医療機関で働いています。今年の10月からは新しい病院に所属となり、総合診療を中心に据えた医療体制や、病院経営の改革プロジェクトに参加していますね。
また、2023年の1月から本格的にアートの制作活動を始めて、今年の6月から画家として活動しています。絵は「医療×人間×アート」をテーマに制作活動中です。僕の代表作としては「静かな鼓動の内側に在る造形物」や「くまさんシリーズ」などがあります。
そのほかに、作品の制作依頼を受け、オンラインショップで販売中です。2024年から絵の販売を開始し、これまでに原画41枚を販売しました。個展も定期的に開催しており、2024年6月には「AKI展-私が絵を書く理由-」というタイトルの個展を開催しましたね。
画家として活動するうえでは、各種SNSに力を入れています。主にTikTokに力を入れており、視聴者の質問にユーモアのある回答をしたり、800日以内に画家になる医師という企画を行ったりしました。その結果、TikTokのフォロワー数も徐々に伸びており7万2000人程度まで増えたのです。
医療を通じて、誰もが抱えている「苦悩」や「葛藤」をアートにして表現しています。みなさまに見ていただくことで何かの気づきになってくれたら嬉しいです。
事業に詰まっている想いを教えてください

人間が抱えている負の感情をアートとして昇華させ、当事者以外にも共有したいと考えました。
医療者はみんなモヤモヤを抱えたり、不条理なことや理不尽、虚無感を抱えていたりすることがあります。また、患者さんや、家族も同様な感情を抱えていることが多いです。
医師になってからは医学の複雑性のほかに、人間としての生物の複雑性や社会的な動物としての複雑性が見えてきました。そのため、医療の中に垣間見えるアートの部分を表現していきたいと思ったのです。
私は負の感情に起因する内容や言葉にしづらい繊細な内容であっても、鑑賞者に柔らかく伝えることができるのがアートの魅力だと思います。それぞれ人間が抱えている「葛藤」や「苦悩」など負の感情をアートに昇華して、当事者以外にも共有できないかと考えるようになりました。
私の作品は見た方が暗い気持ちに浸って終わりというのではなく、最終的には気持ちが上向いていただけたらと思っています。新しい価値観を発見することや、再発見できるような作品を届けたいと思っているのです。

アートで自分だけの世界を創造して人生を終えたいです。
世の中に絵が上手い方は、いくらでもいると思います。そんな中で、自分の最大の武器は医師として培ってきた経験です。
医師としての活動を通じ、感性が刺激されたり、生きている人間に対して真剣に向き合って悩むことが好きなんだと思います。それが私の原動力になっているのです。
いつの日か私のギャラリーを作り、世の中に愛されるような作品を残したいですね。この作品といえば私を思い浮かべていただける作品をつくりたいと思います。アートで自分だけの世界を創造して人生を終えたいです。
最後に読者に伝えたいことはありますか?

アートは色々な立場の方にやわらかく想いを届けられるんです。
自分がクリエイトして何か残すには、アートじゃない方法もあると思います。しかし、文章などの言葉はストレートに受容体に届いてしまうのです。そのため、形としては「かたい」印象になりやすいと考えています。
その点アートは、個人の思想や人生背景に基づいた異なる形の受容体に柔らかくはまり込み、各個人の中でさまざまな作用が働くと考えているのです。いろんな立場の背景を持っているそれぞれの受容体に「やわらかく」働きかけます。
また、私自身がアートを通じて何かを扇動したいわけではありません。人間が新しい行動を始めるためには、まず「気づく」ことが必要です。その「気づき」をもたらすトリガーとしてアートが機能すればいいと思っています。
まだ、人間が見たことないような世界を掘っていく作業がアートの役割だと思うんです。世の中に伝えづらいものはたくさんあり、それをテーマとして伝えられるのもアートとしての利点だと思います。

こんな人間もいるんです。
hospassを見ている方は、医療関係の方だったり、面白い人材を探したりしている方だと思います。私のように医者になった後で画家になることを志してしまった結果「医者と画家を頑張っているちょっと変わった人もいるんだよ」と伝えたいですね。
そしてこの取材で、私の言ったことに対して人によっては色んな解釈や反発もあると思います。言葉は強すぎるときもありますし、トゲがあると思うんですよね。
この記事で私の考えを知って欲しいとか、熱意を伝えたいわけではないんです。ただ、やわらかくいうと「こんな人間もいますよ」と伝わると嬉しいですね。
画医A.K.I(医師)
医学生のときに現代アートにハマり、いつかは画家になりたいと思う。医師として働く中で自身の最後を意識し、アートを創作して人生を終えたいと思うようになる。画家として人間が抱えている負の感情をアートに昇華する作品を創作。現在は総合診療医として病院に勤務している傍ら、画家としてマルチに活躍中。