- 人の生活に寄り添える薬剤師に憧れて転職。
- 2歳の娘が誤嚥で窒息した経験からスタートアップ立ち上げへ。
- 行動原理「顔を出す。声を出す。力を出す」とは。
薬剤師になった経緯は?

高校の就職氷河期の進路選択となり、まず手に職をつけたかったから。
僕が薬剤師を目指したのは、高校2年生の時でした。ちょうど就職氷河期で、家族会議が開かれたんです。父が国家公務員で安定志向が強く、「これからは手に職をつけた方が良い」といわれました。
もともと理系でサイエンスやパソコンが好きだったので、医学部は難しいけど薬学部なら行けるかも、という感じで決めました。
実は、もともと医療に強い憧れがあった訳ではありませんでした。中学生の時に、職業講話で現役の薬剤師の女性が話をしてくれたんです。
なぜ薬剤師になったのかと質問された時に、「暗記が得意だったから」と答えていたのが印象的でした。あ、そんな理由でもなって良いんだ、って思ったのを覚えています。
これまでの経歴を教えてください

コロナ禍での「薬を渡すだけの仕事」で終わっている気がして、もっと人の生活に寄り添える仕事がしたかったです。
大学時代はローターアクトクラブという社会奉仕団体にも入っており、ローターアクトの先輩や、ロータリークラブの経営者や医師の方々と交流する中で、「社会貢献」と「自分で仕事をつくる」という考え方に出会いました。経営者的なマインドは、この時期に育まれたと思います。
2011年に国家試験に合格して、最初は京都の調剤薬局に就職しました。新卒で10ヶ月くらいの時に、いきなり管理薬剤師を任されたんです。スピード感はありましたが、教育体制が整っていなくて、完全に「見て覚えろ」文化。とにかくハードワークで、1年ちょっとで転職しました。
次は大阪と兵庫に店舗がある薬局チェーンに入社しました。社長が本当に良い方で、母と同級生だったという偶然もあり、とても可愛がってもらいました。
企画や教育にも関わらせてもらって、やりがいはありましたが、どこか心の中にモヤモヤが残っていました。「薬を渡すだけの仕事」で終わっている気がして、もっと人の生活に寄り添える仕事がしたかったのです。

患者さまの生活習慣を踏まえた上で問題解決する薬剤師に憧れて転職しました。
そんな時、学生時代から気にかけてくださっている個人薬局を営む薬剤師の方から「ウチに来ないか」と声をかけてもらいました。その方の患者さまへの接し方がすごく印象的だったのです。
ただ薬を説明するのではなく、服装や表情、話し方から生活習慣を読み取ってアドバイスしている。その姿を見て、薬剤師は「薬を渡すだけ」というモヤモヤが晴れるかもと思い転職しました。
その薬局での仕事を通じて「課題抽出と解決」というマインドセットが育まれました。例えば、飲むタイミングが「食後に」と指示されていても、その患者さまが夜勤の仕事なら食事時間はバラバラです。
生活背景を踏まえて「あなたの場合はこの時間とこの時間に飲むと良いですよ」と伝える。そうしていくことで、患者さんから感謝されたり直接指名で相談を受けたりすることも多くなりました。自分なりに考える「理想の薬剤師像」に近づいたと思います。
スタートアップを立ち上げたきっかけは?

娘が誤嚥で窒息死をしかけたことがきっかけになりました。
薬剤師として経験を積んでいた2017年ごろ、当時2歳の娘が誤嚥で窒息し、命を落としかけたことです。
その時、本当に人生観が変わりました。もし助からなかったらと思うと、今でも胸が苦しくなります。調べてみると、乳幼児の窒息事故は年間で100人以上が亡くなっていると知り、「これは社会問題だ」と感じました。
そんな中、たまたま参加したイベントで、チャットワーク創業者の山本敏行さんの講演を聞く機会がありました。初めて「スタートアップ」という世界を知り、衝撃を受けました。「想いを事業に変える方たち」が本当に存在する。僕も挑戦したいと思いました。
勢いで参加した「Startup Weekend」という起業支援プログラムで、娘の事故をもとに「乳幼児の窒息を防ぐ仕組み」をテーマに発表したところ、優勝しました。その時、「あ、自分の想いでも社会を変えられるんだ」と感じたんです。
それをきっかけに薬局を退職し、派遣薬剤師として働きながら事業構想を練る生活に切り替えました。派遣なら働く時間を調整できるので、ライスワークとライフワークの両立ができました。
2019年には経産省の「始動Next Innovator」に参加し、起業家としての基礎を学びました。薬剤師としてではなく、「社会課題を解決する1人の起業家」としての自分を見出した瞬間でした。
現職に至った経緯を教えてください

新規事業(オンライン診療事業)の経験を得て、医療システム開発・マーケティング支援企業へ転職しました。
2021年に、始動の先輩の紹介で、兵庫県の薬局グループに新規事業担当として入社しました。オンライン診療の立ち上げを任され、半年でサービスをリリースしました。
最初は順調でしたが、事業が形になるにつれ、旧体制の方たちが口を出してくるようになり、意思決定がどんどん鈍化しました。
そんなタイミングで、グループの理事から声をかけてもらい、現在の会社「Medvice(メドビス)」にジョインしました。医療×テクノロジーの事業開発を担当しています。
何かをはじめたいと思っている医療職に一言

行動原理は「顔を出す。声を出す。力を出す」です。
僕がずっと大事にしている言葉があります。ロータリークラブの先輩に教えてもらった「3つの“出す”」です。
──顔を出しなさい。声を出しなさい。力を出しなさい。
まず会いに現場まで行く。次にコミュニケーションをとる。そして、せっかくそこまで行ったなら、小さくても行動する。この3つをずっと行動原理にしてきました。
僕はよく、友達の友達など、SNSをきっかけに話してみたい方を見つけたら、メッセンジャーでDMを送っていました。仮に返事が来なくても別に痛くないんですよね。メッセージなんて2分あれば送れるし、失うものはないと思っています。でも、返事が返ってきたら世界が広がるかもしれない。
だから、どんな形でも良いからとにかく動いてみてほしいんです。まず一歩、やってみてください。小さな行動が、大きな転機につながることがあるかもしれません。





三宮 和晃 (薬剤師)
患者さまの生活習慣を踏まえた上で問題解決する薬剤師に憧れて転職。娘の窒息事故とスタートアップとの出会いを機に、乳幼児の窒息を防ぐ仕組みづくりに挑戦。
薬局勤務、派遣薬剤師、新規事業担当を経て、医療×テクノロジーの新規事業開発に携わりつつ、経験・知見を活かして医療コンサルティングの道で活躍中。