薬学生のつまずきに寄り添いたい【かねこち/薬剤師】

かねこち(薬剤師)

勉強法を変えたことで学生生活の活動の幅が広がった経験から、薬学生のオンラインサポートを開始。勉強法と計画設計に特化したコーチングで、これまで400人以上の薬学生を支えてきた。

学生支援に関わるスタッフの育成や、新人薬剤師の勉強コミュニティまで活動の幅を広げている。

記事の見どころ
  • 薬学部で挫折しかけた学生時代の葛藤
  • 「勉強量」ではなく「勉強法」に焦点を当てた新しい学生支援の形
  • 選択できることの大事さとは?

薬剤師を目指したきっかけを教えてください

かねこち

薬理学と有機化学を学びたくて知的好奇心のままに薬学部を選びました。

私が薬剤師を目指したきっかけって、すごくシンプルで“好きだから”です。

文系科目がどうしても苦手で、進路選択の時に理系の学部へ行こうと考えていました。理系の中でも特に化学が大好きでした。大学で化学をしっかり学びたいと思った時に、理学部だと研究寄りになっちゃう。それなら私は有機化学を医療に生かせる薬学部の方に興味が湧きました。

薬学部のオープンキャンパスで薬理学の模擬授業を受けた時「これめっちゃ面白い!」って純粋に思って、薬学部に進学することを決めたのです。

家族が全員教師なので教育の道も少し考えたのですが、自分の知的好奇心にしたがって薬学部を選びましたね。

念願の薬学部に入ってからはいかがでしたか?

かねこち

暗記が苦手で、大学1・2年生の時は勉強だけで精いっぱいで正直楽しくありませんでした。

薬学部に入ってからは、とにかく大変でした。暗記科目が多いにも関わらず、私は暗記が苦手で、家に帰ってから毎日夜10時まで勉強していました。試験前なんて深夜2時まで頭に詰め込んで、3時間睡眠を繰り返したこともありました。

周りの友達は海外旅行やライブに行って楽しそうにしている姿をSNSで見る度に、「なんで薬学部入ったんだろう…」って毎日のように思ってました。大学1, 2年生の時は、勉強しかしていない学生生活で、楽しくなかったですし、辞めたいと思ったこともあります。

転機は大学3年生の時でした。仲の良い友達に「なんでそんな非効率な勉強してるの?」といわれて(笑)。私はまとめノートを完璧にしてから過去問に入るタイプだったのですが、友達は最初から過去問ベースで進める勉強法でした。

最初は反発したものの、その子は再試験になったことがないし、徹夜している姿も見たことがなくて。 「一回信じてみよう」と思って勉強法を全部変えてみました。

かねこち

「勉強って量じゃなくてやり方だ」と気付きました。

友達とクイズを出し合ったりと勉強法にこだわったら、成績が一気に伸びたのです。しかも、勉強以外に使える時間が増えました。バイトで月10万円以上稼げるようになって、海外旅行にも行けるようになりました。1・2年生の頃は諦めてた生活が、3年生から一気に実現してすごくうれしかったです。

海外に行くようになって、いろんな価値観に触れて「せっかくの人生、やりたいこと全部やりたい」と思うようになりました。個人事業主として自由に動ける働き方にチャレンジしたいと思い、大学5年生の時から勉強について発信を始めました。

今の活動に至ったきっかけは?

かねこち

アンケートした結果「勉強法がわからない」悩みが多かったことです。

今は薬学生向けのオンライン個別指導塾を運営しているのですが、最初から「勉強方法を教える」ことをしようと思っていたわけではないんです。活動を始めた時、薬学生から最初に届いたのは「この問題がわからない」よりも「勉強法がわからない」「続けられない」「メンタルが不安」という悩みでした。

これは昔の私とまったく一緒で、勉強量の問題じゃなくて“やり方と戦略”が分からないから苦しいんですよね。自分の経験がすごく役に立つと感じました。そこで私は、単純に授業をするスタイルではなく、

  • 学生の得意な覚え方(聴覚/視覚/言語など)を診断
  • 模試の点数を分析して戦略的に弱点補強
  • 週・月・1日単位で学習計画を作成
  • 週1ミーティングやチャットで継続サポート

というコーチング型の指導にしたんです。結果として、今までに400人以上の学生をサポートしてきました。「勉強が楽しくなった」「成績が上がって初めて自信が持てた」 と言ってくれる学生さんが多くて、これが本当にうれしい瞬間です。

ただ、課題もあります。学生は受けたいと思っても、私のSNS発信の印象が強いため親御さんに怪しいと思われてしまうことです。学生自身は留年ギリギリで本当に助けが必要な状態でも、状況が伝わっていないこともあります。

そういう時は三者面談をして、薬学部の現状や勉強法の重要性を丁寧に説明すると理解していただけます。「距離の近い、話しやすい先輩」であることが、私たちの強みなのかなと思っています。

今の仕事に込めた思いを教えてください

かねこち

薬学部だから仕方ないと、諦めないでほしいです。

薬学部に入ると、「学生生活は我慢するもの」「勉強を最優先にしないといけない」と感じてしまう人は少なくありません。でも私は、薬学部だから仕方ないと諦めて欲しくないのです。

勉強はやり方を少し工夫するだけで、同じ時間でも効率は大きく変わります。効率よく学べるようになると、成績が上がるだけでなく、時間や心にも余裕が生まれます。その余裕があれば、これまで諦めていた学生生活も、もっと充実させることができます。勉強が理由で夢を諦めたり、メンタルを崩す人を減らしたいです。

また、薬学生が学んでいる内容は、薬だけでなく、環境や衛生、化学、幅広い医療知識など多岐にわたります。それだけ多くのことを学んでいるのに、薬剤師は「薬を渡すだけ」と思われがちな現状もあります。だからこそ、薬学生がどんなことを学んでいるのか発信し、薬剤師という仕事の価値を正しく伝えていきたいと思います。

今の活動を通して、これからやりたいこと

かねこち

薬剤師以外のキャリアの選択肢を増やしたいです。

これからやっていきたいのは、薬学生だけでなく、薬剤師になったその先まで含めて支援することです。薬剤師の資格は、薬剤師として働くためだけのものではなく、挑戦の幅を広げてくれる資格だと思っています。

薬剤師以外にも、MRやCRO、製薬企業、教育や支援の道など、色々な選択肢がある。その選択肢を、学生のうちから知っておいてほしいです。

今は、薬剤師の転職支援やキャリア相談、薬剤師向けのコミュニティづくり、学生支援に関わるスタッフの育成などにも取り組み始めています。

薬剤師として働いて疲れたら、別の形で医療に関わっても良いし、また戻ってくることもできる。そんなふうに行き来できるキャリアが当たり前になれば、薬剤師業界全体がもっと柔軟で、明るくなると思っています。

何かをはじめたいと思っている医療職に一言 

かねこち

選べる状態でいることが大事だと思います。

薬学部に入ったからには薬剤師資格を取らなきゃいけないと、一辺倒になっちゃう方が多いんですね。資格を取らないと自分は活躍できないと思い込んでしまうのです。でも、この世界は資格を持ってなくても活躍されている方もすごく多いと思います。

もちろん薬剤師の道を選んでも良いし、薬剤師じゃない道を選んでも良い。大切なのは、選べる状態でいることです。いろんなチャレンジをしてみたって良いのです。

私はこれからも、薬学生や若い薬剤師さんが、自分で自分の未来を選べるように、そっと背中を押し続けたいと思っています。

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